60話 野菜も食う
「あっ、イズミが魔物を狩ってきてくれたのにごめんね。私がやるからイズミはたくさん食べて?」
俺から菜箸をひょいと奪い取り、クリシアがせっせと肉を並べだした。まあ俺があまり気を使うのもよくなさそうだし、ここはクリシアにまかせて、もりもりと肉を食べることにしよう。
俺はさっそく自分の皿に肉と野菜を盛り、ついでにヤクモの皿にも肉と……キャベツとカボチャも入れてやった。
「フニャー、ニャフナニャニャーン……」
『イズミー、ワシは野菜を食いとうないぞ……』
ヤクモからそんな情けない鳴き声とメッセージが届くが、こいつ少し前まで夕食はそこそこに切り上げてカップラーメンばかり食べていたからな。少しは野菜を食わせてやらんといけない気がする。
俺が無視を決め込むと、ジトッと抗議の目を向けていたヤクモが、渋々といった感じでカボチャを口に入れた。
そしてくわっと目を見開いたと思うと、そのまま皿の上の野菜も肉もガツガツと食べ始める。そうだぞ、バーベキューでは野菜もなぜか普段よりも美味く感じるのだ。
「ふはは、あまり食っちまうと今夜だけで肉が無くなっちまうんじゃねえか? ああ、そういや聞いていなかったが、上位種の大きさってどれくらいだったんだ?」
ヤクモの食いっぷりを見ながら親父さんが尋ねると、それにキースが答える。
「普通のホーンラビットを何倍も大きくしたような……。角だけで、これくらいはあった」
キースが両手を目一杯広げてみせた。それを見た親父さんがあんぐりと口を開けながらラウラの方を見ると、ラウラもこくりと頷く。
「マジか……。イズミのやつは、そんな上位種をどうやって狩ったんだよ」
言っていいのかと確認するように、キースが俺に視線を向ける。それに頷いてみせると、キースは口を開いた。
「ラウラから聞いた話によると、突然、天から見たこともないような美しい矢が落ちてきたそうだ。そしてその不思議な矢を受け取ったイズミが弓を引くと、それに呼応するかのように森の神の御力としか思えない力の奔流が矢の周囲に集まりはじめた……とか。そうだな? ラウラ」
ラウラがコクリと頷く。
「そしてここからは俺も見たのだが、イズミが矢を放つと、その矢は神々しい光を纏いながらまっすぐ突き進み――上位種に食らいつき、そのまま鷹のように天へと翔けていったのだ。そして上位種は矢が触れた箇所が消し飛び、一瞬のうちに息絶えた。……たしかにあれは森の神の御業としか言いようがない」
キースが神妙に語り、隣ではラウラが興奮気味にコクコクと何度も頷いている。……いやいやいや、そんなかっこいいもんじゃなかったと思うけど! ダンボール箱から必死に矢を取り出して、技名を叫びながら魔物にブチ当てただけだし。
「天から矢がねえ……」
親父さんも結果はともかくキースとラウラの説明には半信半疑らしく、俺をじろりと見ると苦笑いを浮かべた。
さすがはクリシアと同じく異世界でいちばん俺との付き合いが長いだけあるぜ。親父さんは一度咳払いをすると口を開いた。
「オホン! まあ、イズミがわけわからねえのは今更だし、やったのは確かなんだろうな。だがお前らも余計な吹聴はしないほうがいいぞ。こう見えてイズミは照れ屋さんだからな!」
親父さんから他言しないようにとフォローが入る。でも照れ屋さんって、他に言い方がなかったのかよ。
「当然だ。森の神は沈黙を尊ぶ。今回はイズミの許可が出たので語ったまで。……それから、上位種の肉の大半はまだ俺の家に保管されている」
キースの言葉に親父さんが満足げに頷くと、椅子から立ち上がった。
「わかった。肉がまだまだたくさんあるなら、俺はもう遠慮しねえぞ!」
親父さんはむんずと肉をつまんで皿に乗せると、さらにコップを突き出した。
「イズミ、ワインのおかわりもくれ!」
「おうよ! 今日はじゃんじゃんやってくれよな!」
俺がワインを注いでやると、親父さんはそれをゴクゴクと一気に飲み干す。すかさずまた注いでやると嬉しそうにコップを上に掲げた。
『イズミ、肉おかわり! 野菜もちょびっとだけならよいぞ! それから黄色い飲み物も頼むのじゃ!』
ヤクモが俺の足元をぐるぐると回る。それを見てクリシアがほっこりと目尻を下げ、少食らしいキースはジュースで喉を潤し食休み。ラウラはなにも語らずもくもくと食べている。
森に行くときはどうなることかと思ったが、こうしてみんな生きている。十万Gの臨時収入と美味い肉も得た。結果からすれば万々歳だ。
俺は今日一日の成果に満足感を覚えながら、親父さんのように一気にコップの中のワインを飲み干すと、再び肉をつまみにバーベキューコンロへと向かった。
――後書き――
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