59話 肉を焼く

「食べ物を焼くのに便利そうな台だな……。この網の上に肉を乗せていけばいいんだな?」


 物珍しそうにバーベキューコンロを見つめてキースが尋ねる。


「ああ、じゃんじゃん頼む。野菜もな」


 キースに答えながら、俺は割り箸をみんなに配る。ラウラは割り箸を受け取り首を傾げていたが、親父さんがパキっと割るのを見て同じように二つに割ると、嬉しそうに顔をほころばせていた。ラウラ十六歳、箸が割れてもうれしい年頃である。


「はい、お皿とコップ。飲み物はイズミに任せていいんだよね?」


「ああ、任せてくれ」


 クリシアが木のコップと皿を俺たちに配っていく。ヤクモの足元には食べ物用と飲み物用の皿を一枚ずつ置いていった。


 ところで前から思っていたのだが、人型形態にもなれるヤクモが地面に皿を置いて犬食いするのって、なんだかカワイソウな気がしないでもないんだよな。一応は神様らしいし。


 しかし当の本人は今も空の皿を前にしてまだ見ぬ肉に思いを馳せているのか、尻尾をブンブン振り回しながら涎をたらしている。文句を言ってきたことはないし、特に気にしていないのかもしれない。


 そんな様子を眺めながら、俺は飲み物を注文するために礼拝堂へと向かう。キースもラウラもカーボン矢を注文したときにダンボール箱を見ているが、メシを食ってる時にあーだこーだと説明するのも面倒だからだ。


 礼拝堂に入った俺は、扉のすぐそばでツクモガミから安い赤ワインとオレンジジュースをポチる。


 そしてダンボール箱から瓶を取り出すと、親父さんと俺には赤ワイン。酒は好きではないというキースとラウラにはオレンジジュース。酒を飲ませてはいけないクリシアにもオレンジジュースを注いで回った。


『イズミー、ワシも黄色い飲み物がいいのう』


 ヤクモのリクエスト通りにオレンジジュースを注いでやる。するとヤクモはさっそく口を近づけて舌でぺろぺろ飲み始めた。


『ほほ~。果汁を絞った飲み物か。ワシが飲んだことのある物よりも酸味がスッキリしていて飲みやすいのう! ……おかわりをおくれ!』


 メッセージで食レポをしている間に飲み干してしまった空の皿を、ずいっと前に出すヤクモ。これってかなりお買い得な値段で出品されていた安いジュースなんだけど、それでも満足してくれているようでなによりだ。


 そうして再びヤクモの皿にジュースを注いでいると、俺の鼻になんとも言えない食欲のそそる匂いが届いてきた。どうやら肉が焼けてきたようだ。


 バーベキューコンロの方に目を向ける。するとコンロの周辺で誰もが飲み物を口にせず肉も取らず、固唾を呑んで網の上を見つめている光景が目に入った。


 そして俺が近づくと、その視線が俺に集中する。どうやら俺が最初の一口を食うまでは……ということらしい。


 それならさっさと食わないとな。俺はいい感じに焼けたホーンラビットリーダーの肉を割り箸でつまむと、軽く息を吹きかけて冷まし、そのまま口の中に入れる。そして一枚食べ終わり、思わず声を上げた。


「~~~~~~~うっまあああああああ!」


 見た目はウサギだったので、ジビエ的な臭みや硬さなんかを想定していたんだが、まったくそんなことはない。


 とにかくめちゃくちゃ柔らかく、それでいてクセになる歯ごたえがある。それになんだ、肉自体に染み込んだ味とでもいうのか、旨味がすごい。これが魔素の影響ってヤツなのか?


 俺はたまらず二口三口とどんどん肉を口に入れる。すると他のみんなもようやく肉をつまみだした。


「おおっ! うめえ!」

「美味しい……」

「ほう、さすが上位種だな……」

「(もくもく)」


 口に入れた瞬間、全員が笑顔で肉を頬張る。どうやら現地の方々にも好評らしい。さすが魔物肉のさらにその一つ上位種とやらの肉だ。


「ほう、これはオレンジのジュースか? 俺が飲んだことのあるものよりも飲みやすいな」


 キースがジュースを飲んで一言呟く。どうやらこちらにもオレンジがあるらしい。そういう翻訳をしているのだろうけど。


 そんな様子を眺めていると、俺の足をぺしぺしと叩くヤクモに気づいた。ヤクモは俺と目が合うと切なそうに鳴いた。


「フニャアアアアアアアアアア……!!」

『イズミ、ワシにも肉をはようううううう!』


 すまん、お前のことを忘れちゃいかんよな。俺は箸でコンロの上の肉をごっそりとすくい上げると、ヤクモの皿にたっぷりと乗せてやった。ノータイムでヤクモがかぶりつく。


『おおっ、うまっうまっ! これが魔物肉の味……! ふんふん、魔素が肉と絡み合うとこういう味になるのか!』


 はぐはぐと肉を貪り食うヤクモ。これはすぐに肉が無くなりそうだ。俺は焼けている肉を一つ口の中に入れると、コンロ一面に新しい生肉をたっぷりと広げた。

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