58話 メシの準備をしよう

 クリシアには付け合せの野菜を準備をしてもらい、親父さんは神父服を脱いでくると言って住居に戻った。


 俺はツクモガミで商品のチェックをしながら、教会の外に出てメシの準備を始めることにする。


「ニャンニャーフニャンニャ!?」

『なー、なー? どうやって肉を食うつもりなのじゃ!?』


 興奮気味に鳴きながら俺に尋ねるヤクモ。だらしない口からは相変わらず涎が垂れ流しだ。


「やっぱ美味い肉ってやつは、一度は素材のままで味わいたいからな。今回はシンプルに……焼く!」


 俺はバーベキュー用のコンロを検索。アウトドアで使うような、木炭を入れるグリルに長い足の付いたバーベキュー台である。最初はカセットコンロ用の鉄板なんかも考えたが、さすがに五人と一匹が使うには小さすぎるので却下した。


 いくつか出品されていたバーベキューコンロを吟味していると、俺の中で勝手に優良出品者に認定している【アウトドアおじさん】が出品しているものがあった。


 それは他のバーベキューコンロに比べると少しだけ高い。それもそのはずで、説明欄には未使用品と記載されていた。


 少し高いが、なんと言っても信頼厚いアウトドアおじさんだ。俺は迷わずそれをポチることにした。すぐさま落ちてきたダンボール箱を開ける。


 中には明記されていたとおり、使われた形跡のないきれいなバーベキューコンロ一式が入っていた。どうして未使用品なのか疑問だったが、一枚の紙切れが同封されており、そこに理由が書かれていた。相変わらず自分を語るのがお好きらしい。


『彼女にフラれてしまい、一人で使うには少し大きすぎ……しばらく使う予定がなさそうなので、出品させていただくことになりました;_; 私の代わりに大事に使ってくださいませ』とのことだ。


 こんな人の良さそうなおじさんを振るだなんて……。どんまいアウトドアおじさん。異世界からあんたの幸せを願っているぞ。


 俺はアウトドアおじさんの幸せを天に祈ると、教会の前の空き地にバーベキューコンロを置き、それを囲むように礼拝堂から運んできた椅子を並べた。


 その次は木炭を買うことにする。どうやらバーベキューなんかで余った木炭を出品する人が多いらしく、半端な量の物がいくつも売られていたのでそれを適当に買いあさった。


 まあ今後も使うことがあるかもしれないし、ストレージに入れておけば湿気しけらないしな。


 そしてバーベキューコンロの中に木炭を投げ込み、カセットボンベに刺すタイプのバーナーを購入。先に木炭に火をつけておく。誰かにバーナーを見られると説明が面倒だからだ。


 ここまでで使ったゴールドは約一万G。まだホーンラビットリーダーの角の売却益の十万Gはまるまる残っている。


 苦戦しながらなんとか木炭に火がついたところで、坂道を登ってくるキースとラウラの姿が見えた。キースは葉で包まれた肉の塊を両手で抱えている。


「おっ、二人とも来てくれたか。悪いが向こうの家にクリシアがいるから、その肉をスライスしてもらってきてくれないか?」


「承知した。ラウラ、お前は疲れたろ。少し休んでろ」


 そう言ってキースはラウラを椅子に座らせると、一人で住居へと向かった。椅子に座って俺の作業を眺めるラウラに声をかける。


「まあ森の中で半日動き回ったんだ、疲れたよな。……もしかしてメシ誘ったの、迷惑だったか?」


 よく考えたらさっさと寝てしまいたかったのかもしれない。しかしラウラはふるふると首を振る。


「たしかに疲れたけど、今休ませてもらえれば平気。ところで……イ、イズミさん、クリシアとは、その――」


「おうっ! ラウラじゃないか! 久しぶりだな!」


 普段着に着替えた親父さんがキースと入れ違いにやってきた。ラウラは「……なんでもない」と言葉を切り、親父さんに顔を向ける。まあ世間話はいつでもできるよな。


「お、お久しぶりです」


「なんだ親父さん、いつもみたいに猫被んないのかよ」


「ラウラはクリシアとは小さい頃はよく遊んでいたからな。特別よ」


 親父さんがにっかりと笑いながら答える。


 それから話を聞いたところ、クリシアとラウラは幼馴染だということがわかった。最近はクリシアも教会の手伝い、ラウラも狩りにと、前ほど会うこともなくなったみたいだけど。


「しかしよ、魔物肉なんて久々に食べるぜ。俺は今から楽しみで仕方ねえよ」


 親父さんがバーベキュー台を興味深く覗き込みながら言った。


「森に魔物がいるのに、なんで狩らないんだ?」


「そりゃあ魔物が弱いなら喜んで狩るだろうが、あいつらは獣よりも知恵が回るし力も強い。魔物より獣を狩るようになるのも当然だろ。命あっての物種だからな」


 その言葉にラウラも頷いている。ラウラの両親も魔物に深手を負わされて亡くなったんだよな。それでも食べるためには魔物も棲息している森に入らないといけないんだから、この世界はやはり厳しい。


 そんな話をしていると、たんまりとスライスされた肉を皿に乗せ、クリシアとキースがやってきた。ついにバーベキューパーティの始まりである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る