57話 帰宅
しばらく歩くと、いよいよレクタ村が見えてきた。【遠目】と【夜目】のお陰で俺には門の辺りもよく視える。
門のすぐ横にはかがり火が焚かれ、門番のおっさんが椅子に座っている。そのすぐ近くでは――あれは……クリシアだ。クリシアが落ち着かない様子でかがり火の周りをうろうろとしていた。
「おーい、クリシア~! 戻ったぞー」
「……!」
俺の声に気づいたクリシアは、一目散にこちらに向かって駆けてくる。相変わらず足が早い。あっという間に俺に接近してきた。
「なんだ、もしかして待っててくれたのか? そんな心配しなくても平気だって言っただろ――」
「バカッ!」
そう叫んだクリシアは、俺の胸に頭から突っ込んできた。
「ぐほっ!」
激しく息が漏れた。なんだかんだでウサギ相手にノーダメだったからな、今日一番のダメージを食らった気がするぜ……。そんな俺の様子にも気づかずクリシアが叫ぶ。
「そんなの心配するに決まってるじゃない! お父さんに相談してもイズミなら大丈夫だろとしか言わなくって、かと言って私が行っても足手まといにしかならないだろうし……。私……もう、どうしていいのかわからなくて……」
俯いたまま肩を震わせるクリシア。たしかに気が焦るあまり、クリシアに説明もそこそこに飛び出したからな……。俺としても彼女に心配をかけたのなら謝るしかない。
「あー……すまなかったな。でもほら、俺はご覧の通り無事だし、キースもラウラも助かったんだ。これで一件落着ってことでさ、とりあえず許してくれ」
「どうやら俺たちのせいで、お前にまで迷惑をかけてしまったようだな……。本当にすまなかった」
「クリシア……その、ごめん……」
俺たちの言葉にクリシアは俯いたままブンブンと首を振る。
「……ううん、二人とも無事だったのは本当に良かった。その、私の方こそ、なにもしてないくせに取り乱して、ごめん……」
そう言って顔を上げたクリシアの瞳にはまだ涙が残っていたが、暗いし気づかなかったことにして、とりあえず空気を変えてみる。
「ところでさ、戦利品ってわけじゃないけど、魔物を獲ってきたんだよ。俺もう腹が減っちゃってさあ。さっそく肉を食べてみたいんだけど、今晩の料理はそれにしてもらってもいいか?」
「もうっ、イズミったら……。でも私、魔物の解体なんてしたことないよ?」
クリシアも引きずるつもりはないらしく、俺の言葉に目をはらしたまま苦笑をすると、そこでキースが名乗りを上げた。
「それなら俺がやろう。このくらいでお前に対する礼になるとは思わないが、獣の解体なら得意だ。俺に任せてくれれば、とりあえず食べられる分だけなら解体してすぐに持っていってやる」
「おっ、そうか。それじゃあさ、お前らも一緒に食おうぜ。二人とも腹減ってるだろ?」
「はは、そうだな。ずっと逃げっぱなしで食べている暇はなかった。そういうことなら遠慮なくいただこう」
腹に手を当てながらキースが答え、ラウラも恥ずかしそうにこくりと頷いた。
「フニャンニャン!」
俺の足元をぐるぐる回るヤクモ。わかってるって、お前も早く食いたいんだよな。
「それじゃそういうことで、メシ食おうぜ。なっ! ほら、帰ろう!」
俺はクリシアの肩を掴んでくるりと後ろに向けると、そのまま肩を押しながら村へと歩いた。
◇◇◇
俺たちが無事に帰ってきたことに安堵の表情を浮かべた門番のおっさんに挨拶をしながら村に入る。
それから一度キースの家の解体用の小屋にホーンラビットリーダーの肉を置いて解体を頼み、俺とクリシア、ヤクモは一足先に教会へと帰ってきた。
しかし住居の方に親父さんはいなかったので、礼拝堂の方へと向かう。扉を開けると、ひざまずいて女神像に祈りを捧げる親父さんの姿があった。
親父さんは物音に振り返ると、すぐさま立ち上がり、照れくさそうに頭をかいた。
「おうっ! イズミ、戻ってきたか! ほらな、クリシア。大丈夫だって言っただろ?」
「そういうお父さんだって今……。ううん、なんでもない」
クリシアも深くは語らず、軽く首を振る。だが俺はあえて言わせてもらおう。
「親父さんにも心配をかけたようですまなかったな」
すると親父さんはツカツカと俺に近づきながら口を開く。
「は? 俺は心配なんかしてねえし! 今日はちょっと神への祈りが長引いただけだっつの! だが……クリシアを悲しませたのは許せねえなあ!?」
そして俺の首根っこを掴んで引き寄せると、思いっきりヘッドロックを仕掛けてきた。
ムキムキマッチョのヘッドロック。学生時代に友人が遊びで仕掛けるようなものより、力のかけ具合が半端ない。頭が締め上げられるようにきしむ。めちゃ痛い。
「ぐおおおっ! 痛ええええ! まっ、待ってくれ! 迷惑かけたお詫びってわけじゃないんだが、いいもんを収獲してきたから、今夜はそれをみんなで食ってぱーっと騒いで、今日のことを忘れてくれると助かる! 今キースたちに準備してもらってるからさ!」
「ほう~、なにを狩ってきたんだよ?」
親父さんがヘッドロックの圧を緩めながら問いかける。
「ホーンラビットリーダーの肉だよ。美味いらしいからみんなで食おう」
「手下じゃなくて上位種の方なのかよ……。相変わらず何をやらかすか、わからないヤツだな、お前……」
呆れた声でヘッドロックを外した親父さんは、ニヤリと口の端を吊り上げ、グラスを傾ける仕草をした。
「もちろん、
「ああ、今日は俺もたらふく食いたいし飲みたい気分だからな」
今日くらいはいいだろう。むしろ今日ハメを外さないでいつ外すのか。俺はさっそく宴の準備のためにツクモガミを起動させ、商品のチェックを始めた。
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