56話 戦利品タイム
俺がホーンラビットリーダーの死骸に向かって歩いていると、ヤクモが駆け寄ってきた。
『おおっとイズミよ。出品するのはちと待てい!』
『え、なんで?』
『お前のおった世界に料理はかなわんようだがな、食材だけを見ればなかなか良いものもあるのじゃ。特に肉……魔物肉は魔素が肉の旨味を引き出しておるとでも言えばいいのか? 正直ワシも食ったことはないのでよくわからんが、とにかく美味いらしいのじゃ! そういうわけでな、売るのは角だけにしておくといいぞい』
『へえ、角だけでも売れるのか。ってそういやホーンラビットもそうだったけど、矢が突き刺さったりしてても出品不可になったりしないんだな』
壊れた馬車が売れなかったのは記憶に新しい。
『そりゃそうじゃ。壊れた物は使えんが、角は素材としての価値が高いし、肉なんかはむしろ死んでからが本番じゃろ?』
身も蓋もない意見である。さらにヤクモのメッセージが続く。
『じゃからな、肉は売らずに食おうではないか。ダメか? なー? いいじゃろー? なー?』
銀狐が口から涎を垂らしながら俺を見上げる。結局のところヤクモが食いたいだけのような気がするが、食い意地の張ったコイツがそこまで言うなら本当に美味いのかもな。試しに一度くらい食ってみてもいいかもしれない。
とはいえ、カーボン矢の購入でホーンラビットを売った儲けをほとんど吐き出したんだよな……。所持金は16652Gしかない。とりあえずは角の値段を見てから、肉を売るかどうか決めるか。
そう思い、まずは角を出品してみることにした。頭の上部が完全に残っていて、そこより下がごっそり削れてるのでかなりグロい。俺はつま先で角にちょんと触れつつ出品を念じる。
【ホーンラビットリーダーの角 1個 取引完了→100000G】
高っか! 今までで最高の買取金額じゃねーか!
角で十万なら、胴体の方は一体いくらになるんだ!? 値段だけって見れたっけ? などと思いながら胴体の方もつま先で触れてみた。すると――
【首のないホーンラビットリーダー 1匹 取引未完了 →30000G】
モニターにこのように表示された。うーん、角に比べると安い。こっちも高いようなら売ってしまいそうになるけど、角で結構な収入があったし、これなら食ってしまってもよさそうだ。なにより、売るとヤクモがうるさいだろうしな。
そういうことで、胴体はそのままストレージに収納。よし、これで戦闘の後片付けも終わった。
「よし、終わったぞー。村に帰ろうぜ」
俺が呼びかけるとキース兄妹がこちらにやってきた。キースが矢筒を背負い直しながら相好を崩す。
「イズミ、重ね重ねになるが、本当に助かった。お前は俺の誇らしい同志であり友人だ」
「はは、いいってことよ」
出会った初日にやたら気に入られ、一方的に同志と言われたときには色々と考えるところもあったが、さすがに背中を預けて戦った仲ともなると、同志とも友人とも言われてもなんの違和感もなかった。
「わ、私も友人から……」
「おうっ、ラウラも友人、友人! わはは!」
近づいてきたラウラの肩をポンと叩く。ようやく修羅場に一区切りがついたからか、俺も少しテンションが高くなってるようだ。しかし面倒くさい兄貴がすぐに声を荒げた。
「おいっ! お前を友人とは認めたが、ラウラに気安く触るのは許さんぞっ!」
「もう、兄さん……」
恥ずかしそうに呟くラウラ。まあラウラは美人さんだからシスコンが心配する気持ちもわからんでもないけどな。しかし俺は後腐れのない女の子以外には性的に興味はないので安心して欲しい。
そんなキースをはいはいと適当にあしらい、それから森での出来事を話し合ったりしながら、俺たちは月明かりを頼りに村への帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます