53話 撤退
進路上のホーンラビットを収納しながら進み、ようやく追ってくるホーンラビットがいなくなった。
いつの間にか俺の矢筒も空になっている。どうやら矢はギリギリ足りてくれたらしい。そのことにホッと胸をなでおろしていると、メッセージが流れた。
『ほれ、今のうちに魔物を売っぱらっておくのじゃ。いつゴールドを使うことになるかわからんからな。手が空いてるときにやっておいたほうがよいぞ』
まあ親父さんが死にかけていたときは、必死で売れるもの探したりしたもんな。売れるものがあるなら、さっさと換金するに限るか。それに俺も魔物がいくらで売れるのか、かなり興味がある。
さっそくストレージから【ホーンラビット】を選ぶ。一気に全出品もできるが、試したいこともあるのでここは一匹だけだ。
【ホーンラビット 1匹 取引完了→3000G】
ほう、結構高く売れるんだな。そこからさらにもう一体。
【ホーンラビット 1匹 取引完了→3000G】
おおっ、買い取り価格が下がってないぞ!
『な? な? 買い取り価格が下がっとらんじゃろ? 魔物はある程度、他の品物に比べて優遇されておるのじゃ』
どうやら俺の思惑を悟ったらしいヤクモからメッセージが届く。なるほど、たしかに魔物を狩るのはお得なのかもしれない。まあその分リスクが高いのも、たった今実感しているところなんだけどな。
その後は残りすべてを売り払い、俺は21000Gをゲットした。ここまで買い取り価格の減衰なしである。すごいぜ魔物。
これで所持金は32452G。結構な金額だ。
「おい、どうしたイズミ、指が痛むのか? もうすぐ森から出られる。あとしばらくは頑張るのだ!」
いつの間にか横に並んだキースが、激励するように力強く俺に声をかける。どうやら俺がツクモガミをタップするために指をぴろぴろとしているのを勘違いしているらしい。
「ああ、いや。
「そうか……。むっ、イズミ、お前の矢筒が空ではないか。悔しいが今お前が一番腕が立つのは間違いない。俺たちの矢を持っておけ」
そう言ってキースは自分とラウラの矢筒も探り、俺に矢を差し出す。
「……と言っても、俺たちもたくさん使ったからな……。これで最後だ」
苦々しい表情を浮かべたキースの手には、たった三本の矢が握られていた。どうやらお互いギリギリだったらしい。本当に矢が足りてよかったよ。しかしもうゴールも目前だ。
「もう追手はいないし、森から出られそうなんだろ。それならキース、お前が持っていてもいいんじゃないか?」
「いや、こういうときこそ何かが起こるものなのだ。いいから持っておけ」
「おっ、おう。わかった」
有無を言わさぬ口調でぐいっと腕を突き出すキースから矢を受け取り、矢筒に入れる。
そして俺たちはひたすら出口に向かって森を走り抜けていった。追手はもういない。後はひたすら走るだけ。
息を切らせながらしばらく走ると、俺にも森の出口が、その先に広がる平原が見えた。そのとき――俺の聴覚は急速に追ってくる魔物を捉えた。
「――なんか来るぞ! デッカいのが!」
俺は声を上げながら森を駆け抜け、ついに森から脱出した。しかし気を抜いてはいられない。俺たちは即座に背後の森を振り返る。
その直後、草木をなぎ倒す轟音を響かせ姿を現したのは、これまでの見たよりもずっと大きいホーンラビットだった。無理やり例えるなら、動物園で見たライオン……いや、それよりも一回り大きい。
今まで相手にしたホーンラビットは、とにかくその角が脅威だった。しかしこの巨大な魔物は、その大きく広がる口に噛みつかれるだけでも致命傷になりそうだ。
「こいつは……リーダーか……!」
キースがかすれた声で呟く。
「リーダー?」
「ああ……。ホーンラビットの群れを統治している魔物の長だ。こいつが森の縄張りを拡充し、俺たちを攻め立てた魔物なのだろう」
要はこの辺りのホーンラビットのボスってことか。たしかに俺が見ただけでも、今までの魔物と格が違うのは感じるもんな。
「ギャオオオオオオオオオンンッ!!」
ホーンラビットリーダーが天を仰ぎ、ウサギらしからぬ咆哮を上げる。空気がビリビリと震え、森にいた鳥たちが一斉に逃げるように飛び去った。
そしてホーンラビットリーダーはグルルルと唸り声を上げながら顔をこちらに向けると、怒りの炎が揺らめいているような真っ赤な瞳で俺をじいっと見据えた。
ええぇ……。どうやら俺、完全にターゲットにされているようなんですけど。
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