50話 再会
音のする方へしばらく進んでいくと、薄明かりにぼんやりと照らされたキースと、その背中に背負われたラウラの姿を発見した。キースの腰には小さなランタンが吊り下げられており、それが足元をほのかに照らしている。
二人はまだ俺たちには気づいておらず、キースは一歩一歩こちらに向かって歩いていた。しかしやがて俺たちに気づいたのか、ふいに立ち止まると警戒するように前を見据えた。
何者かがいるとはわかったが、それが誰なのかは判別できていないようだ。俺はいきなり弓で狙われたりしないように、両手を広げながらゆっくりと近づき、声をかけた。
「おーい。俺だよ、イズミだよ」
俺の言葉にキースは緊張を解いて軽く息を吐く。背中のラウラは苦しそうに眉を寄せながら俺の方を
「イズミじゃないか。どうしてこんなところに……?」
キースは疲れ果てたように顔をしかめながら俺に尋ねる。
「弓矢を持ってこないし、家に取りにいったらお前がいないから気になってさ、探しにきたんだよ」
俺はキース宅から持ってきた弓をひらひらと掲げてみせると、キースが声を潜めながらも眉を吊り上げて怒り出した。
「バカ者っ! たしかにお前は筋がいいとは言ったが、だからといって俺たちを探しにこんなところまで来るとは、無謀にもほどがあるぞ……!」
「まあまあ、実際こうして会えたんだし、いいじゃないか。ところで背中のラウラはどうしたんだ?」
ここで長々と説教をされても困る。俺が話を変えると、キースがラウラを背負い直しながら答えた。
「うっ、うむ……。魔物から逃げている最中、毒蛇にやられてしまったのだ。早く家に戻って医者に見せてやらねば命にもかかわる」
キースに背負われたラウラは浅い息を繰り返し、なんとも苦しそうだ。だが毒にやられたのなら、俺が来た甲斐もあったってもんだ。
「毒って言ったな? それなら任せてくれ」
毒が回ってるせいなのか、やけに熱く感じるラウラの背中に俺は手をあてる。
「おっ、おいっ、ラウラに気安く触るな!」
シスコンがなにやら言っているが華麗にスルーして念じる。
「――キュア」
次の瞬間、俺の手のひらから放たれた光の粒子がラウラを取り囲み、スウッと身体の中に入っていった。
すると、苦しそうに息を吐いていたラウラの呼吸が安定したものに変わった。そしてキースが見守る中、ラウラがぱちくりと目を開くと、戸惑いながら声を上げる。
「……えっ……苦しくない……。毒が……消えた、の……?」
「なにっ? ラウラ、本当なのか?」
「う、うん……。兄さん、降ろしてくれても大丈夫。それからイズミさん、助けてくれてありがと……」
ラウラがまだ疲労の残った顔で弱々しく微笑むと、キースは彼女を背中から降ろし、それから俺をまじまじ見つめた。
「驚いたな……。イズミ、お前キュアが使えたのか……?」
「ああ、まあな」
するとキースは突然、天を拝みながら両手を組み合わせると、
「おお……森の神よ……。この男を遣わされたことに感謝いたします……」
そんな感謝の言葉を口にした。
でも俺をここに連れてきたのは、森の神なんてのじゃなくて物品の神なんだけどな。案の定、狐のヤクモは面白くなさそうにぷいっと横を向いていた。
「イズミ、妹を助けてくれて感謝する。俺たちだけならここで死んでも仕方がないと思っていたが、お前が来たからには少なくともお前を生きて帰さねばならん。ここは危険だ、早く立ち去るぞ」
「おうよ、さっさとズラかろうぜ」
俺だってこんなところに長居するのはゴメンだ。だが、俺たちが足を進めようとしたところ、【聴覚強化】でなにかが近づく気配を感じた。
「おい、なにかくるぞ」
即座にヤクモが俺の背後に回り、キースは弓をつがえながら苦々しく言葉を漏らす。
「くっ……! 追ってきたか」
そうして茂みから出てきたのは――ぴょこんと立てた耳がかわいい一羽のウサギだった。
「なんだ、すまんウサギだったわ」
だがそんな俺の気の抜けた言葉にも、キースは緊張を解かずに弓を構え続ける。俺の目前にツクモガミのモニターが現れた。
『よく見い、額に小さな角があるじゃろ。あれはホーンラビットという、れっきとした魔物じゃ!』
メッセージが流れた直後、ホーンラビットがこちらに向かって一直線に飛びかかってきた。
――後書き――
「異世界をフリマスキルで生き延びます。」50話到達! さらには文字数もこの辺りで十万字を突破しました! ここまで読んでくださりありがとうございます!\(^o^)/
「続きが読みたい!」と思っていただけた方は、この機会に
https://kakuyomu.jp/works/16816700428792237863/reviews/new の『★をつける』から【☆☆☆】を押して作品を応援してくださるとうれしいです!
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