43話 スキルよもやま話
スキルに関しては、他にも考えさせられることがあった。
例えば、いかついおっさんが【人形作り】のスキルを持っていたり、ガリガリの青年が【大食い】、人の良さそうなおばさんが【虚言】を持っているのを見たのだ。
人って見かけによらないなあと思うと同時に、なんだかプライベートを覗き見しているような罪悪感が湧いたりもしたんだよな。
ヤクモは「才能の可視化がスキルであるが、まだ発現まで至っておらぬかもしれぬし、それを使うのかどうかもまた人次第。お前が気に病む必要はない」と言ってくれた。
親父さんに【キュア】が見えたときのように、まだ活用できてないスキルかもしれないし、【虚言】があるからといって嘘ばかりついてるとは限らないということだ。逆にバリバリ使いこなしていることもあるかもしれないけど。
俺もせいぜい色眼鏡で見ないよう、気をつけないといけないよな。あと罪悪感については深く考えるのはよそう。言いふらしたりはしないから、勘弁してくれよな。
まあそんな感じで、スキルについていろいろと知れた一週間ではあったが、肝心の戦闘に役立ちそうなスキルは見つからなかった。
◇◇◇
そうして今日も診療所に鐘の音が届いた。この鐘は教会の
俺はサジマ爺さんに礼を言って診療所を離れると、まっすぐ教会へと帰った。
「おかえり、イズミ。お勤めももうすぐ終わるから、それが終わったら夕食を作るね」
教会前で掃除をしていたクリシアが俺に声をかける。クリシアはシスター服姿。偶然なのか、前の世界のように紺色を基調とした服装だ。不思議なもんだな。
「あいよ。今日は常連の婆さんが山菜をくれたよ。厨房に置いてくるわ」
「わっ、ありがとう。それじゃあ今晩さっそく使っちゃうね」
「りょうかーい」
俺はそのまま教会の裏手に周り、クリシア父娘の住居へと向かった。
『クリシアの山菜料理はなかなか美味いから楽しみなのじゃ』
足元を歩くヤクモからメッセージが届く。
『そうだな。最初に薄いスープを食べさせられたときは、絶望しかなかったけど』
初日の硬いパンと薄いスープのインパクトはすごかった。だがアレは旅から帰ってきた直後で食料も保存しやすいものしかなかったということらしい。翌日からはずいぶん改善している。
とはいえ、前の世界のメシが恋しいのは変わらない。いや、むしろ以前よりも激化していると言ってもいい。その理由は――
『イズミ、夜食はわかめのラーメンを食べるからなー。今のうちに湯を沸かしてストレージに入れておいてくれい』
『くっ、わかったよ……』
理由はコレだ。ヤクモのやつ、俺からせしめたカップラーメン十個を、毎晩毎晩、一個ずつ食べやがるのだ。
毎晩、換気の良くない客室にラーメンの匂いが充満し、人型に戻ったヤクモがラーメンをすする音が聞こえるたび、俺の食欲がガンガン刺激されている。
初日の宴会の反省を心に刻むため、ツクモガミの利用を禁じている俺の我慢もそろそろ限界なのだ。
『そんなに悔しそうにワシを見つめるくらいなら、我慢せずにツクモガミを使えばいいのじゃ』
『今ここで一度使ってしまえば、俺はゴールドを稼ぐ手段を持たないまま、きっとゴールドを使い切るぞ。そういう自信がある』
自慢じゃないが、前の世界じゃ貯金なんて全然なかったしな。無駄遣いしているつもりもなかったが、安月給の独身男が毎晩外食していたらそういう風にもなる。
『むっ、それは困るぞ。ワシとて手持ちのカップラーメンは残り僅かなのじゃ』
『なら放っておいてくれ。はあ、ラーメン……』
ため息をつく俺を見て少し不憫に思ったのか、この夜の夜食タイムの時、ヤクモが珍しく「少しだけじゃぞ……」とカップラーメンを俺に差し出してくれた。汁しか残ってなかったけど。
だが汁だけとはいえ、この舌と胃にガツンとくる濃ゆい味がなんともいえない。
いつも料理してくれているクリシアには悪いが、やはりメシは前の世界の物には敵わないと再確認した。俺は必ずゴールドを稼ぐと心に誓い、ゴクゴクと汁を飲み干す。
そして汁を全部飲んだことをヤクモに叱られたのだった。
そんな次の日、このスキル探しの日々はようやく転機を迎えることになる。男女ペアの狩人が診療所にやってきたのだ。
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