42話 指圧師イズミ
「はぁぁぁぁ……。気持ちよすぎて、あの世からお迎えがきたのかと思ったわい。イズミとやら、またよろしく頼むぞえ」
「まいどありー」
婆さんはテーブルに銅貨を六枚を置くと、軽やかな足取りで診療所から出ていった。ちなみに診療費は砂時計の砂がすべて落ちるまで(ヤクモが言うには約二十分)で300R。Rはリンと読む。やはりゴールドとは別単位だ。
今回は砂時計二回分の施術だったので、料金は600R。銅貨が一枚100Rなんだそうだ。
ちなみに1000Rあると、村の露店でそこそこ満足できるくらいの昼食が食えるらしい。外食一回1000R……うーん、だいたい日本円と同じくらいなのかね? まあ俺の中ではそういうことにしておこう。
一時間フルで働いても時給900R、さらに稼いだ金のうち三分の一を爺さんに分けることにしているので、かなりの薄利とも言えなくもない。
しかしこっちはおまけみたいなものなので、正直どうでもいいんだけどな。
「さてと……」
俺は婆さんを見送りに行ったサジマ爺さんの背中を見ながらツクモガミを起動。スキルを調べることにした。
今更だが、これが俺の本来の目的だ。指圧師をすれば体に触るのが当たり前だし、そのうえ探さなくても向こうからやってきてくれる。
余談だが、それをヤクモに説明をしたときは「そうじゃと思ってたわ~。知っとったわ~」と目を泳がせながら言っていた。絶対わかってなかったよなアイツ。
「ありゃ、なにも……ない?」
しかし待望のスキル欄には、なにもスキルが表示されていなかった。すぐに診察室の隅っこに鎮座しているヤクモからメッセージが届く。
『そういうこともある。どちらかというとスキルを一つも持ってない人間のほうが多いくらいじゃ。それなりの才能がないとなスキル持ちと判定されんのよ』
『へーそういうものなのか。でも最初にスキルが表示された野盗の小男はめっちゃスキルを持ってたよな。もしかしてあいつって……』
『うむ。あやつは地味に有能じゃったな。お前に出会わなければ、いずれは下剋上を果たし、ひとかどの野盗団のボスになっとったかもなー』
俺と会ったのが運の尽きとヤクモは言いたいようだが、俺だって小男のスキルをゲットすることはできたものの、そもそも出会わなければ無用なトラブルに巻き込まれなかったわけだしな。俺としても不運を嘆きたいところだよ。
「はい、イズミ。おつかれさま。喉も渇いたでしょ?」
クリシアが俺に木のコップに入った水を差し出して、にっこり微笑む。
……ああ、でもそうだよな。お陰でこの子を助けられたし、住む場所も提供してもらえたんだ。俺は運が良かったと思っておくべきだろうな。
「ありがと。いただくよ」
俺はコップを受け取り、一気に飲み干した。スキルがあるとはいえ、疲れないわけではない。40分ツボ押しっぱなしはそれなりにしんどい。井戸から汲んできたばかりらしい、ひんやりとした水は一際美味しく感じられた。
「おーい、イズミ。次の客がきたぞー」
サジマ爺さんが中年の男を連れて戻ってきた。さて、次の仕事にかかろうかね。
◇◇◇
そうして俺がスキル探し兼バイトを始めて一週間ほど経過した。客は初日は四人ほど、翌日からはだいたい六~七人で安定していった。そんな俺の働きぶりを問題なしと判断したのか、クリシアは三日目から教会の仕事に戻った。
客層は以前から診療所の常連だった客が半分、残りの半分は村に来た新顔を一度見に行ってやろうという好奇心を持つ連中だった。どこも身体が悪くないのにやってきた客もいたもんな。
なんにせよ、新規の客には事欠かなかったのは、スキル探しの観点からしてもありがたかった。
客の中にはスキルのない客も数多くいたが、スキルがあっても戦闘には役立ちそうにないスキルを持ってる村人もかなりいた。
例えばこんな特殊技能にあった。【床上手】だ。
これを持っていたのは、いかにも陵辱物のエロ漫画に出てきそうな、でっぷりとしたおっさんだった。まあそれは見た目だけで、受け答えは普通だったけど。
男ならきっと誰しもが欲しい床上手スキル。いつか活用する日を夢見て思わず取得しそうになったが、俺をじっとり睨みつけるヤクモの視線に気づき、ハッと我に返ったのだった。ポイントの無駄使いはできないもんな。
けれどもせっかくなので、このエロ親父に村に娼婦さんがいるのかどうかを尋ねてみた。しかし残念なことにこの村にはいないということだった。
この辺りは一夫多妻が認められているそうで、春を売るくらいなら金持ちの嫁になったり妾になったほうが長期的には得だという考え方の者が多いそうだ。このエロ親父にも四人の嫁がいるとか。後で知ったがこのエロ親父、村一番の金持ちらしい。
ちなみに俺が娼婦さんについて尋ねた話は、翌日には教会にまで伝わっていたらしく、その日は一日中クリシアの機嫌が悪かった。
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