40話 教えておじいさん

「おい、爺さん。どうしたんだ、大丈夫か?」


 ついでに肩に手を添えるのは忘れない。これも役得だ。……爺さんに触れて得した気分って、なんだか悲しくなるけどな。


 そんな俺の胸中をよそに、しゃがみ込みうつむいていた爺さんが顔を上げた。


「……ん? なんじゃお前さんは。見かけん顔だが」


「俺は教会で居候してるイズミってもんだよ。村長から聞いてないか?」


「ああ、お前さんが野盗からガルドスとクリシアを助けたという……。ふうむ、そうは見えんがな」


 爺さんは値踏みするようにじろじろと俺を見つめる。まあ俺の見た目は十八歳で体つきも細いしな。野盗と戦ったと聞いて、疑うのも無理はない。


「マグレだよ、マグレ。あんまり気にしないでくれ。それより爺さんこそ、こんな所に座り込んでどうしたんだよ」


「うむ……少し膝が痛くてな。痛みが治まるまで休んでおるんじゃわい」


 爺さんが顔をしかめながら膝をさする。膝痛か……年寄りにはありがちとはいえ、このまま放っておくのも感じが悪いよな。なにより俺にはスキルがある。


「なあ爺さん、良かったら俺がヒールをかけてやろうか?」


「おお、ヒールが使えるのか? そういえばそういう話も出とったな……」


 しっかりヒールのことも伝わっているらしい。本当に村って、よそ者の情報が出回るのが早いね。


「まあね。それのお陰でなんとか二人を助けられたんだよ」


「それじゃあお願いしようかの。実はガルドスが帰ってきたと聞いて、膝にヒールをもらいに教会に行く最中じゃったんじゃ」


「そうかい。親父さんはしばらく留守だったわけだし、爺さんも大変だったな。――っと、はいヒール完了。膝の具合はどうだ?」


 爺さんは杖を掴んで恐る恐る立ち上がると、そこから足を一歩踏み出した。


「おお、痛みが引いておる。すまんなイズミとやら、助かったわい。……そうじゃ、ワシの用事もなくなっちまったことだし、ワシの家で茶でも飲んでいかんか? ヒールの礼をさせてくれい」


 膝痛がなくなった影響か、先程よりも明るい表情で爺さんが言った。よそ者の俺としても、教会の二人以外と親睦を深めるいい機会だろう。俺は爺さんに頷く。


「それじゃあ遠慮なくいただくよ。でも、こいつも一緒でいいか? 俺の従魔なんだ」


 俺が足元のヤクモを指差すと、ヤクモが「ニャン」と鳴いてみせた。


「そういえば従魔も連れとるって話じゃったな。狐の魔物なのかい」


「ああ、人の言葉もわかるくらいには賢いから、人を襲ったりはしないよ」


「ほう……たしかに利口そうな顔をしとる。うむ、一緒にきてええぞ」


「ニャニャン♪」


 利口そうと言われて機嫌よさそうにヤクモが鳴いた。こいつ、褒められ慣れてなさそうだな。やっぱり不憫なやつ……。



 しばらく歩き、爺さんの自宅に案内された。家の入り口は他の民家に比べて大きく。中もまるで待合室のように椅子が並べられている。間取りが普通の家じゃなさそうに見えるが……。


「なあ爺さん、なにかここで商売でもやってるのか?」


「指圧師をやっておったんじゃ」


「指圧師? 体を揉んだり押したりするアレ?」


「うむ、それじゃ。ヒールも万能ではないからの、それなりに繁盛しとったんじゃがな。歳を取ってワシもあちこち弱って、指圧をするどころじゃなくなってのう……。それで去年廃業したんじゃわい」


 懐かしそうに待合室を眺めた後、爺さんはさらに奥へと入っていく。この先が住居になっているのだろう。


 今のうちにスキルもチェックしてみるか。


【スキルポイント】77

《現在習得可能な特殊スキル》

【指圧】


 指圧のスキルがモニターに表示された。爺さんは今はもう指圧による医療行為はできないらしいが、ヤクモが言ったとおり、かつて使えたスキルも習得可能のようだ。


 ……指圧か。怪我をした後のヒールには敵わないだろうけど、日々の健康管理なら指圧の方がいいかもしれないよな。まあだからといって、これを覚える気はさらさらないが――


 ……いや、待てよ? 俺、いいこと思いついちゃったんですけど。


 そのまま【指圧】をポチッと押す。するといつもの取得確認のメッセージが、ヤクモの台詞付きで表示された。


《イズミ、どうして押したのじゃ。たしかに爺さんの言うとおりヒールは万能ではないかもしれんが、別に指圧スキルなんていらんじゃろ? さあはよNOを押せい。スキルポイント3を使用します。よろしいですか? YES/NO》


 俺は迷わずYESをタップした。

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