39話 戦闘系スキル
村の中を見て回っても売れそうな物は落ちていない。しかし俺は前の世界のメシを食いたい。ヤクモと話して、ようやくやらねばならないことがわかってきた。
「とにかくメシのためにゴールドを稼がないとなあ……」
道を歩きながら呟く俺にヤクモが反応した。
「うむ、そうじゃろ、そうじゃろ? 美味しいメシ食いたいよな!」
銀狐姿のまま、なんとも嬉しそうな声を上げるヤクモ。まあこの辺は周りに人がいないからいいけど。
「ああ、お前の思惑通りになるのは
「いんや、使えんぞ。貨幣を共有してしまうと、経済がどうなってしまうかわからんからなー。あくまでツクモガミへの出品でゴールドを得てくれい」
そんな気がしてたが、やっぱりダメか。まあ貨幣で物を買って、それをツクモガミに出品することならできそうだが、転売っていかにも利益が少なそうだし取引停止限度もある。……こっちの貨幣を稼ぐという案は保留だな。
「そうか……。なあヤクモ、それじゃあ何をすればゴールドを稼げると思う?」
「何で稼ぐかは、スキルを習得してから考えればいいのではないか? 凡人が凡人のままでも稼げる量はしれとるゆえ」
「まあ確かにそうかもな……。でもどんなスキルを覚えればいいんだ?」
「てっとり早いのは魔物を倒せるような戦闘系のスキルじゃな。身を守ることもできるし、一石二鳥じゃろ?」
ヤクモはとにかく俺に魔物を狩らせたいようだが、それは別にしてもこのバイオレンスな世界ではいくらか腕っぷしが必要かもしれない。ちなみに今俺が所持しているスキルは――
《精神スキル》
【ヒール+1】【キュア】
《特殊スキル》
【夜目】【罠抜け】【壁抜け+1】【粘り腰】
こんなところである。拉致監禁からは逃げられる自信はあるけど、面と向かって襲われるとヤバいよな。
スキルポイントは77☆。宴会で豪遊してしまったがその分☆は増えたので、ある程度の余裕はある。
「命あっての
「棒術なあ……。近づかないと攻撃できないのは今はまだオススメできんのー。特に魔物相手じゃとな」
こいつの中では俺が魔物と戦うのが決定的になってる気がする。あまり気がすすまないんだがなあ。……しかし他にも問題はある。
「でもな、他のスキルを他の人から習得するにしても、誰がどんなスキルを持ってるかは分からないだろ。手当たり次第、村人を触って回るなんてできないぞ? そんなことしたら、絶対に変質者呼ばわりされて村八分だ。その辺はどうすればいいんだよ」
「うーん、うーん。うーむー? ……まあ、それは自分で考えるのじゃなー」
ヤクモは何度も首を傾げ、最終的には俺にぶん投げた。
「マジか。そこが一番重要な気がするんだが。なにかいい案はないのか?」
「言ったじゃろ。ワシは発想とかアイデアとか、そういうのを考えるのは苦手なんじゃ。言われたことをこなすのは、まぁ得意な方だと思うがの。……そういえば、天界におるときにも同僚に『アンタってまさに会社の歯車ってヤツみたい(笑)。自分で考えたり行動できないの~? ウケる~』とか言われて……くそっくそっ、ワシだってなあ、必死に頑張っとるんじゃっ!」
狐姿のヤクモがその場でじたばたと地団駄を踏み始める。腹が立つなら、わざわざ声色を変えてまで再現しなくてもいいのに。ちなみにギャルっぽい言い方だった。
「ま、まあ落ち着け。会社の歯車となるのは恥じゃないぞ。歯車に誇りを持ちなよ。な?」
俺は適当に仕事をしていた方なので、きっちり与えられた仕事をこなす同僚はそれなりに尊敬していた。ちなみに後輩田口は俺と同じ側である。
「うぐっ……。そうなのかの? ワシは間違ってはいないんかのう~」
涙目になりながら狐のヤクモが俺を見上げる。こいつ天界でのことを思い出すと、思いっきり情緒不安定になるよな。ほんと不憫になってきた。
「お、おう。そうだとも、世の中適材適所だ。考えることは俺に任せとけ。えっと、そうだな……村の中で挨拶ついでに握手を求めるってのはどうだ?」
「ぐしゅっ、この辺は握手の習慣なんてないぞ」
鼻をすすり、前足でこしこしと目を擦りながらヤクモが答える。
「そうか……それじゃあすれ違いざまに肩でもぶつけるか? いや、そんなことしてたら絶対に喧嘩になるな。うーんうーん、どうしたものか――」
そんなことをヤクモと話しながら、道をてくてく歩いていると、道端で座り込んでいる老人を見かけた。
なんだ? 病気か怪我か? なんにせよ素通りはできない。とりあえず声をかけてみるか。
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