37話 レクタ村
俺たちが村に近づくと、門の近くで暇そうに椅子に座っていた門番らしい太った中年が立ち上がり、こちらに向かって走ってきた。
「おおっ、ガルドス神父! 予定どおりに帰ってこられないから心配していましたよ。……しかし、そのお姿は一体……!?」
門番が目を丸くして驚くのも無理はない。親父さんは野盗にやられ、服はボロボロの血まみれだったからな。水で洗って少しは汚れも取れたが、ほとんどは染み付いたままだ。
「ええ、心配をおかけして申し訳ありません。野盗に襲われ馬車を失ったのですが、ご覧のとおり無事ですよ。こちらの青年に助けられましてね」
門番の問いかけに親父さんが穏やかな声で答える。というかいきなりキャラが変わってるよ、誰だよコレ。
「なんと……野盗に、ですか……。その、詳しい話を聞きたいところなのですが……」
そう言いながらチラチラと俺と足元のヤクモに視線をよこす門番。コイツら一体何者なんだよと言いたいのが顔に出ている。
「彼と彼の従魔についてですが、教会で身元を保護することになっております。彼らがなにか問題を起こすようであれば、このガルドスが責を負いましょう」
「そうなのですか? ですが……なんとも……」
門番が俺の上から下までジロジロと見つめる。俺はツクモガミで買ったTシャツとチノパン姿、靴もスニーカーだ。
ここまでの道中でずいぶんと薄汚れたけど、やっぱり浮いて見えるよな。教会に着いたら親父さんのお古を貰う予定になってるけど。
「ボロワーズさん。我々は野盗に襲われながらも、なんとか命を長らえることができました。今はまず一度教会に戻り、神に感謝の祈りを捧げたいのですが……?」
少し声を低くした親父さんの言葉に、男は慌てたように道を空ける。
「あっ、そ、そうでしょうな。どうぞお通りください!」
「ありがとうございます。夜には村長宅に報告しに向かいますので」
「わかりました。それでは私が神父の無事を村長に伝えてまいります!」
「おお、ご足労をおかけします」
「いえっ、それではっ!」
門番は一目散に村の中へと駆けていった。ここの警備はいいのかよ。
「さあ、行くぞ」
俺は前を向いて歩き出した親父さんの脇をつついた。
「親父さん……助かったけどさ、なんなのさっきの喋り方」
「うるせえ。俺は村じゃそれなりの地位なんだよ。かたっ苦しい喋り方のほうがジジイどものウケがいいんだ。わかったら少し黙ってろ」
「ふふっ、そりゃ驚くよね」
「だよなー」
俺とクリシアが笑い合うと、親父さんはなんだか恥ずかしそうに頭をぼりぼりとかいた。
村の中は木造と土壁の建物が混在しており、統一感はない。活気のある村らしく、子供たちが辺りを走り回り、俺をじろじろ見ながら駆け抜けていったりしている。
村の入り口からしばらくは中央の道をまっすぐ歩き、途中で脇道に入った。そこからはゆるやかな坂道を登っていく。高台から見下ろすと、村の周辺が柵で囲われているのがよく見えた。
「クリシア、村を柵で囲ってるってことは、魔物か獣でも襲ってくるのか?」
「うん、この辺にはフィールドウルフって魔物がいるの。でもあの柵を越えることはないから、村にいれば大丈夫だよ」
「うへえ、俺たちよく外で寝れたよな」
「お父さんが焚き火をしてたから大丈夫。フィールドウルフは火を恐れるから……あっ、ここが私たちの教会だよ」
「へえ、ここが……」
二人が住むという教会は石造りの建物だった。村の中をここまで見てきた中では、一番立派な建物といってもいい。
屋根の先には女神像のようなものがついていた。あれはこの世界の主神様を模しているのかな? ヤクモが言ってたようにボインボインに作られてるけど。
「ささ、入ってね」
クリシアが鍵のかかっていない大きな扉を開ける。中は天井の高い広間になっており、長椅子が規則正しく並んでいる。一番奥まったところには女神像が備え付けられていた。ここは礼拝堂だろうか。
親父さんとクリシアは女神像の前にひざまずくと、両手を組み合わせて祈りを捧げるようにこうべを垂れる。見ればヤクモですらペコンと頭を下げていた。
とりあえず俺も皆にあわせておくか。俺だって女神様に目をつけられなかったら、なんの力も持たないままこの世界に放り出されていたんだもんな。
女神様、俺に生きる力を与えてくれてありがとうございます――と。
俺はお祈りを終え、顔を上げる。見回すと他の皆はまだ頭を下げたままだった。
手持ち無沙汰になった俺はふと視線を感じ、女神像を見上げた。そのとき女神像の目が一瞬俺の方を向いていたような気がしたんだが、もちろん気のせいだろう。
◇◇◇
しばらく祈りの時間を過ごした後、俺は二人に教会の中を案内され、教会の中にある客間を貸してもらえることになった。
部屋の中には小さなテーブルとベッド、クローゼットがあるだけ。クリシアからは何か必要なものはないかと尋ねられたが、これで十分だと答えた。俺にはストレージもツクモガミもあるからな。
俺はしばらく体を休めるつもりで、少しきしむ木のベッドに寝転がる。……しかし旅の疲れが溜まっていたのだろう、いつの間にやら眠りにつき、気がつけば翌日の朝を迎えていたのだった。
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