35話 スキル

 パン二つを捧げたところ、神の機嫌はあっさりと回復した。


『ふんっ。こんな物でワシの怒りが収まるとは思わんことじゃ……なんじゃこれっ! うまっうまっうまっあー!』


 とツクモガミで食レポをしながらパン二つをハグハグと食べ、完食する頃には上機嫌。ヤクモがちょろくて大変助かる。


 こうして軽く腹に食べ物を入れた俺たちは、親父さんとクリシアが住むレクタ村に向けて出発することになった。


 移動方法はもちろん徒歩である。親父さんの話によれば、休憩を挟みながらでも夕方前には着くらしい。


 平然と言っていたので聞き流しそうになったが、十時間近く歩くことになりそうだ。不安はあるが、歩くしかないんだよな。保ってくれ、俺の足。



 ◇◇◇



 ――それから数時間が経過した。その間、ずっと歩きっぱなしだったが、若返った影響か、なんとか健脚の二人についていけそうでひと安心といったところ。


 昼になり、ようやく休憩を取ることになった。新たにツクモガミで買い出しはせずに、昨日の余ったカップラーメンを一人一個ずつ食べることになった。


 狐のヤクモはどうするんだと思ったが、狐姿のまま口先を容器の中の突っ込んで器用に麺を啜っていた。口の周りは汁でべちゃべちゃになってたが、本人は気にならないらしい。


 とはいえ俺が気になるので、ストレージから出した水で口の周りを洗ってやった。最初は嫌がる素振りを見せたヤクモだったが、最終的にはまんざらでもなさそうに自分で口の周りを猫みたいに腕でこしこしと毛づくろいをしていたよ。


 そしてしばらく食休みをしている間、俺は草原に座り込んで足をマッサージしながら、ヤクモにスキルのことを聞いてみることにした。


『うむ、お前の推測はおおむね正しい。この世界の人はスキルをスキルとして認識してはおらぬ。ただ、それが得意、それができると感じているだけじゃ。認識できるのはイズミ、お前だけということじゃな』


『親父さんはキュアを覚えてないのに、俺は親父さんに触れるとキュアが表示されたのはどうしてだ?』


『触れた相手の習得可能スキルが表示されたとて、その人物がスキルを習得しておるとは限らん』


『ああ、やっぱりそうなのか』


『うむんっ。お前が習得可能スキルとして見れるものは、対象者が【これから習得の見込みのあるもの】【今習得しているもの】【以前習得していたもの】、このいずれかに当てはまるものが表示されるのじゃ。この辺はワシではなく、技術の神やら運命の神が担当していろいろやっとったんで、ワシも詳しくは知らんけどな』


『お前にも仕事を手伝ってくれる神様いたんだな』


『もともとこのプロジェクトは分業で進める予定だったんじゃわい。だがな、あいつらは自分の得意分野だけを終わらせると、さっさと持ち場を離れよってな。それで気がついたらワシひとりだけが現場に残されておったのじゃ……』


 銀狐が遠い目で草原のはるか彼方を見つめている。


『お、おう。ほんとご苦労さまです……』


『ふんっ、まあ最後まで居残りしてたお陰で、うまい食べ物にありつけたからの。思い出したら腹も立つが、もう遺恨はないわい』


 ふてくされるように、ごろりと草原に寝転がるヤクモ。聞けば聞くほどブラックな職場だとしか思えん。


 まあ仕事に関しては責任感みたいなものを持っていそうだし、お仲間からすれば仕事を押し付けやすいんだろうなーってのは、昨日から一日見てるだけでなんとなくわかるけど。


 またなにかを思いついたらツクモガミのバージョンアップを頼むつもりだったけど、しばらくは休ませてやるか……。


 そんなことを密かに思いながら、俺は足のマッサージを続けた。

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