31話 親父さんのスキル
自分の時間感覚的には昨日も前世で飲んだはずだが、なぜか懐かしく感じるアルコールを胃に流し込んだ後、俺はツクモガミからスキル習得画面を呼び出した。
まずは精神スキルをタップ。たしかここには――あった。
【スキルポイント】72
《現在習得可能な精神スキル》
【キュア】
これこれ、キュアだ。おそらく解毒魔法だと思うけどどうかな。とりあえずそのままキュアをタップしてみる。
《解毒魔法じゃ。アルコール中毒にも効くぞい。スキルポイント15を使用します。よろしいですか? YES/NO》
おそらくヤクモの仕業だろう、キュアの説明文が加えられていた。覚えるまで内容がわからないのは不安なので、こういう仕事は助かる。
足元のヤクモを見ると、ジャーキーを食べるのを中断してこちらにドヤ顔を向けていた。狐のドヤ顔、レアなものを見たぜ。
ヤクモに軽く親指を立てて見せた後、YESをタップした。
《キュアを習得しました》
ヒールLv2を覚えたときの衝撃を思い出し、少し身構えたが、俺の身体を襲った衝撃はそれ以前と特に変わらないものだった。多分、アレが特別ヤバかったんだろうなあ……。
そして更に【身体スキル】と【特殊スキル】もそれぞれチェック。
【身体スキル】には【棒術】、【特殊スキル】には粘り腰というものがあった。
棒術は消費スキルポイント15。棒を振り回す技術が高まるスキルらしい。そういえば親父さんは棒というか角材振り回してたな。
そして名前だけではよくわからない、粘り腰というのをタップしてみると――
《死の淵において、ギリギリまで生き残るスキルじゃ。おっさんが死にかけながらもなんとか存命だったのは、このスキルのお陰じゃろなー。イズミにもオススメじゃぞ。あともっとジャーキーをおくれ。スキルポイント20を使用します。よろしいですか? YES/NO》
とりあえずヤクモが突き出しているからっぽの紙皿に、ジャーキーを補充してやる。再びはぐはぐと食べ始めるヤクモ。
死ににくくなるスキルかあ。そもそもそういう場面に遭遇したくはないものだが、万が一のことがあるかもしれないもんな。オススメされたし、一応覚えておくか。
棒術は保留にしよう。スキルポイントもある程度は余裕をもたせておきたい。後でまた覚えたくなるスキルがあるかもしれないからな。
そうしてビリビリッと体を震わせてスキルを覚えた後、ふと地面を鳴らす足音が聞こえたのでそちらに目を向けた。
クリシアだ。テントから出たクリシアが俯きがちにこちらに向かって歩いていた。
できれば朝まで引き延ばして置きたかったイベントが、向こうからいきなりやってきてしまった。俺はクリシアに対してどう反応すればいいんだろうな。
据え膳から逃げて恥をかかせたことを謝るべきか? それとも何事もなかったかのように振る舞うのが正解か? 俺がまごついている間に、親父さんが先手を切った。
「おうっ! クリシア、お前もこっちこい!」
ワインを飲みながら上機嫌に親父さんがクリシアに手招きをしている。……よし、決めたぞ! このにぎやかな雰囲気のどさくさに紛れて、何事もなかったかのように振る舞おう。
俺は紙コップに残ったワインを飲み干すと、覚悟を決めてクリシアに向かって手を振った。
「よ、よう、クリシア! 眠れないのか? よかったらお前も酒飲むかー!?」
クリシアは無言でこくりと頷く。俺が新しい紙コップに赤ワインを注いでいる間に、クリシアは焚き火を囲んだ俺と親父さんの中間の位置に座った。
俺が紙コップを差し出すと、クリシアはそれを奪いとるように取り上げ、一気に飲み干した。それを見て親父さんが愉快そうに声を上げる。
「ガハハハ! なんだクリシア。お前もいける口だったのか? そういうことなら、さあ飲め飲め!」
どうやら今まで親父さんの前で飲んだことはなかったらしい。ぐっと空の紙コップを俺につきつけるクリシア。目が据わっている、ちょっと怖い。
俺は無言の圧力に屈し、再び赤ワインを注ぎ――なんだかワインが足りなくなる予感がしたので、さらに二本、ツクモガミからワインを注文したのであった。
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