28話 なかまになりたそうにこちらをみている
「え? 俺についてくるって?」
「そうじゃ! 神が同行するだなんて、人からすれば誉れじゃろう?」
さぞ良いことを提案しているように神様が言う。さて……どうしたものか。
この異世界、俺のいた世界に比べて危険なのは間違いない。その安全対策として俺はスキルを習得できるように身体を改変されたらしい。
その対策が功を奏し、こちらに来ていきなり巻き込まれたトラブルもなんとか凌ぐことができた。しかしこれからもなんやかんやで災難が降り掛かってくるかもしれない。
そうなってくると、やはり神様がそばにいてくれると安心感が全然違うよな? 今後の俺の安全が保証されたようなものだろ、コレは。
「あんたが来てくれるってことは、神様の力で俺を守ってくれるってことだよな? それなら――」
だがそんな当然の期待を込めた言葉に、神様は首を傾げて一言だけ告げた。
「なんもないぞ?」
「は?」
「今の、ワシに、神力なぞ、なーんもないっ!」
神様はカレー汁のついた薄い胸をむんと張った。
「ええぇ……」
「今、ワシの神力はすべてツクモガミに使われておる。これはワシがここにいようが天界に戻ろうが変わらぬよ。だが、神が人たるお前についていってやろうと言うのだ。ここは伏してありがたく思い――」
俺は片手を前に出し神様の言葉を遮る。そして丁寧にお辞儀をすると――
「それでは、今回はご縁がなかったということで……」
はっきりとNOを突きつけた。だが神様はぷんすかと両手を上下に動かしながらお怒りの様子だ。
「はあああああ!? なんでじゃーい! 名誉なことなんじゃぞ! ここは我が信者であるなら、滂沱たる涙を流すところなんじゃい!」
「俺はあんたの信者でもなんでもねえし! それに神力とやらがないなら、余計な食い
「んなっ!? そこまで見通すとは、ただのアホではないということか……!」
「アホか! それくらい誰にでもわかるわ!」
「ぐぬぬ……。なあ~、いいじゃろ? いいじゃろ? こんなうまいメシ、天界じゃあ食えんのじゃあ! なあー、頼むー頼むー!」
威厳が通じないとみるや、神様は地面に転がるとじたばたと駄々をこね始めた。おもちゃ売り場前で極稀に小さいお子さんがやってるのを見るやつだ。
あれを見ると、お母さん大変だなという気持ち同時に子供の必死な様子に微笑ましさすら感じるのだが、この神様くらいの微妙な年齢でされると、こんなにもイラっとした気分になるのか……。
俺は大きくため息をつくと、ビシッ! と指を突きつける。
「ダメに決まってるだろ! 俺は今、自分が生きていくだけで精一杯なの! それにな、そもそもあんたを連れて帰ってクリシアや親父さんになんて説明するつもりだよ。神様ですって紹介するのか?」
俺の言葉に駄々こねモードの神様がぴたりと動きを止め、地面に転がったまま顎に手をあてた。
「むう……。それはワシも困る。神が世に降臨しとるとか、話が漏れたらやっかいごとにしかならんからの……。だがな、それなら――これでどうじゃ!?」
神様は体を起こすと、その場でくるんとでんぐり返りをする。ぼふんと煙が舞い、次の瞬間には少女の姿は動物の姿へと変化した。
耳がツンと長く、ふさふさの大きなしっぽ。地球で言うところの狐のような姿だ。だがその毛色は少女の毛色と同じ銀色。銀の狐だ。
「これでどうじゃ? 人に懐くとても美しい獣を拾ったことにすればええ」
どういう声帯になってるのか知らないが、狐の姿のまま少女の姿と同じように話しかける銀狐。
「駄目だ。俺からすれば、面倒ごとを抱え込むだけなのは変わらねーだろ」
「むうう、言わせておけば……! よし、よーし、わかった。そういうことなら、お前の役に立ってやろうではないか!」
「……何をしてくれるんだ?」
「さっき言ったとおり、ツクモガミはもう完全版となった。後は不具合がでたらワシがちょいちょいと直すだけのつもりでおったのだが……今後もアップデートを続けていこうではないか! どうじゃ? これならどうじゃ? なー、頼むのじゃー。なー?」
狐になった神様は俺の足元にまとわりつくと、すりすりと顔をこすりつけた。ええ……ウソだろ、神様としてのプライドとかないのかよ、コイツ……。
俺は若干引き気味になりながらも、アップデートについて聞いてみる。
「アプデね……。それってどんなことができるんだ?」
「ワシは言われたとおりに作るのは得意じゃがなー、クリエイティブな素養は下の下と天界では評判なんじゃ。じゃからお前がなにかリクエストしてみ? やれそうならやってやるゆえ」
「リクエストねえ……うーん……」
いきなりこっちに振られても困る。やってほしいことか、なんかあったっけか――あっ、ひとつあったぞ。
「ストレージの中にある要らない物を、その場で削除したりはできるか? いわゆるゴミ箱機能なんだけど。ダンボールとかビニールとか収納するといちいち表記されるから、ストレージ内がごちゃついて邪魔なんだよ」
「……ふむ、ふむう……。そうじゃなあ、現世に降臨しとるので少々時間がかかるが、それくらいなら明日までにできるぞ」
「おっ、できるのか?」
「できるぞい。じゃから、ほれ」
銀狐は俺に前脚の肉球を見せてきた。
「カップラーメン十人前で手を打とう」
「え? 物を要求するの?」
「ったりまえじゃ! それともアレか? お前はワシにやりがいだけで働けとでも申すのか? ワシは知っとるぞ! お前の世界ではそういうの、『やりがいしゃくしゅ』と言うんじゃろ!?」
「言えてねえけど、よく知ってるな……」
「ふむんっ! 今回のプロジェクトがスタートしたとき、我ら神々はあっちの世界の勉強会を開いたからな。それなりに知識はあるんじゃぞー?」
銀狐は二本足で立つと、やはり胸を張ってみせる。そのポーズ好きね。
「それにもちろん、ワシはこの世界のこともよく知っておる。お前がここで生きていく上でワシの知識は役に立つぞ? あの父娘よりも情報には長けておるからな、たぶん……」
「あんたが見てきた世界だろ。どうしてそこは自信なさげなんだよ……」
その辺の一般人より知識があるって胸張って言えない神様ってどうなのよ。銀狐はこれまた器用に両前脚をぐりぐりと合わせながら答える。
「こっちの世界は長い間、代わり映えせんからなー。十年二十年スパンでたまーに情報を仕入れてもなーんも変わっとらんから、めったに調べないのじゃ……」
どうやらずいぶん文明の停滞している世界のようだが、さすがにまったく変わらないということもないだろう。この件に関してはあまり期待できなさそうだ。しかし……。
「……ツクモガミのアップデートは、ゴミ箱の追加だけで終わらないよな?」
「そうじゃなー。まあなんかリクエストがあれば追々、付け足してやってもよいぞ」
そういうことなら……いいのか? 本当に大丈夫なのか? コイツと少し話しただけでも、かなり残念な気配がプンプンするんだが。
……いやしかし、ツクモガミのアプデは魅力的だよな……。よし、俺も腹をくくろう。ここは多少の面倒くささよりも利益を取るべきだ。
「……わかった。お前の同行を認めるよ。これからもよろしく頼む」
「うんむっ! よろしくな!」
神様は満足そうに声を上げるとくるりと一回転、元の銀髪の少女に戻りにっこりと微笑んだ。ちなみにどういう仕組みなのか、胸のカレー汁は消えていたのだった。
――後書き――
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