27話 カップラーメン
「カップラーメンを食べたいって、あんた、物品の神様なんだろ? 自分で出せたりはしないのか?」
「異界の品はお前を介して購入することで、この世界に
神様が勝手にツクモガミを使うなりなんなりして、向こうの世界の商品を手に入れることはできないってことか。なんだかちょっとした優越感があるな。
「そういうことでな、さっきお前らが美味そうに食ってるのを見てな、どれほどの物なのか気になってのう……」
神様のしまりのない口から、またよだれが垂れた。本人は気づいていないらしく、じいっと俺の答えを待っている。さすがにこれを目にして、あげませんとは言えないよな。
「わかったよ。それじゃあどれにする?」
俺はまだストレージに残るカップラーメン詰め合わせをダンボール箱ごと取り出した。すぐさま神様は箱の中身を食い入るように見つめる。
箱の中には俺たちが食ったのとは別のメーカーの商品も入っているのだが、神様は俺たちが食べたのと同じ、世界的に有名な例のカップラーメンを手に取ると、色違いの容器を見比べたり、上下に振って音を聞いたりし始めた。さすがに音を聞いても何もわからんと思うけど。
「んんん……。どれが一番美味いのじゃ? 赤いやつか? 青いやつか? それとも黄色いやつなのか?」
「どれが一番美味いかを言い始めると戦争が起きるぞ……。俺としては初めて食うんだし、やっぱり初代のオリジナルを勧めるけどな」
俺は赤いカップラーメンを指差す。
「ふむ、そうか。それじゃあそれを貰うとするぞい」
赤いカップラーメンを選んだ神様は包装されたビニールを不慣れな手付きでなんとか取り除くと、満面の笑みを浮かべて上蓋をビリッと開けた。そして中を覗いて気の抜けた声を上げる。
「あう……。そうじゃ、湯がまだじゃった……」
上蓋を開けたまましょんぼりと眉を下げる神様。放っておくと乾麺をそのままバリバリと食べかねない。そう思った俺は急いでストレージを検索。
「ちょっと待ってな。これ、いけるかな?」
俺は熱湯を入れた鍋をストレージから選択。すぐに鍋が地面にドンと落ち、中から少量の湯が溢れた。ストレージにいれた場合、時間経過でヌルくなるのかどうかを実験していたのだが――
「おっ、熱々のまんまじゃん。ストレージの中って時間経過しないのな」
「うむ、しないぞ! ほれ、はよう、はよう湯を入れてくれーい!」
俺はずいっと前に差し出されたカップラーメン容器に、こぼれないように慎重に湯を注ぐ。ヤカンも買っておいたほうがいいかもな……。
「蓋をして三分待つんだぞ」
そう伝えると、神様は上蓋を両手で大事そうに押さえ、目の前に掲げてニヤニヤと見つめる。
「むふー。ワシが時空を司る神なら、三分も待たずに済むんだがのう。じゃがこの待ち時間もまた愛おしく感じるものじゃなー。……はっ、もしやそのために、あえて三分かかるようにしておるのか?」
「それは違う」
「そっかー……。なあお前、もう三分経ったかの?」
「まだ三十秒くらいだよ」
「マジか……。こんなに時間を長く感じたのは神として生まれてから初めてかもしれん。なんと罪深い食品なのじゃ……カップラーメン……」
その後も何度も時間を尋ねる神様をなんとか待たせ、ようやく三分(体感)が経った。
「よし、もうそろそろいいぞ」
「いいのか? 食っていいのか!?」
俺が渡した割り箸を手に持ちながら、神様は目を爛々と輝かせる。
「ああ……しっかり食え。おかわりもいいぞ」
「そっ、そうか! それじゃあ食うぞ!」
神様は上蓋を引っ剥がすと、割り箸を中に入れ、一気にずずずっと
「あちゅっ! でもっ、うまっ、うまっ! うまいっ! うまーいっ! はふっはふっ!」
はふはふと熱そうにしながらも、神様は中身をどんどん減らしていく。そして汁までごきゅごきゅと飲み干すと――
「おかわりっ! 今度は黄色いのがいいっ!」
そう言って俺に容器を差し出した。ノリでおかわりもいいって言っただけなんだけど、まあいいか。
それから神様はカレーに続きシーフードのカップラーメンも食べ終わると、地面にべったり座って満足げに腹をさすった。服装の胸のあたりにはカレー汁が飛び散っているが、本人は気にしていないようだ。
「はふう~。満腹じゃ、満腹……。食べ比べてどれが一番うまいか見定めてやろうと思ったのじゃが、甲乙つけがたいのーう。たしかに一番を決めようとすれば争いが起きるのー……」
しばらくの間、神様はどうでもいいような感想を言い続け、ふやけた顔をしながら腹をさすり続けていた。やがてラーメンの感想からよくわからない独り言へと移行していく。
「ツクモガミを完成させたらワシの仕事は終わりのつもりじゃったが……。しかし……ふむ……これは……」
それから俺を放置してぶつぶつと続ける神様。俺としてもそれをずっと眺めていてもしかたない。そろそろ戻るわと声をかけようとしたその時、神様は突然立ち上がり、ふんすと胸を張った。
「よし、決めた、決めたぞ! お前が早くこの世界に慣れるよう、このワシが同行してやろうではないか! どうじゃ、うれしかろう!?」
え? いきなり何言ってるの? 俺についてくるってこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます