22話 テントの設営
心のつかえが取れたようなすっきりした気分に浸りながら俺たちは会話を続け、やがてそろそろ寝ようかということになった。
俺はストレージから、かなり大きめのダンボール箱を取り出した。中身は本日最大の買い物であったテントだ。お値段35000Gなり。
テントはあまり焚き火に近いと、火の粉が飛んでテント生地に穴が空いたりするらしい。実際にキャンプをしたことはないけれど、後輩田口からオススメされたキャンプ漫画にそういうことが書かれていた気がする。
そのようなにわか知識を元に、焚き火から存分に距離をとった場所にテントを設営することにした。
焚き火の明かりから離れたことで周辺は真っ暗。夜間のテント設営はさすがに明かりがないと厳しい。そこで新たにツクモガミから電池式のLEDランタンと電池を購入した。合わせて3210Gだ。
最初はこちらの世界観に近いオイルランタンを買おうと思った。だがオイルランタンは燃料の補充がめんどくさそうだし、照明はLEDのほうが虫が寄ってこないという話も聞いたことがある。
その上、オイル式よりLED式の方が安かったんだよな。そうなればもうLED式を買う選択肢しか俺には残されてなかった。
「クリシア、これ持ってて」
「う、うん。これランタンだよね? すごく明るい……」
おっかなびっくりにランタンを手に持ちながらクリシアが呟く。未知の道具にクリシアは目をまんまるくしているが、俺はこの父娘に道具の出し惜しみはしないことに決めている。
そうして明かりを確保した後は、親父さんにも手伝ってもらいながらテントの設営となった。
もちろん俺はテントの設営なんてしたことはない。しかしダンボール箱の中に、テントと一緒に数枚の紙切れが入っていたのだ。
その紙切れには、『元から入っていた説明書はすでに処分してしまっているので、説明書代わりに私が書いた物を同封しておきます^^;』とのメモが。そして二枚目からはテントの詳細な組み立て方法が手書きされていた。
そこには、組み立てに際してのコツや失敗しやすいポイントなどが体験談も交えて事細やかに説明されており、むしろオフィシャルの説明書よりもわかりやすいのでは? といった代物だった。
その説明書のお陰で、素人ゆえに多少は苦戦はしたものの、俺と親父さんでもなんとかテントを設営できたのだった。ありがとう、出品者のアウトドアおじさん。
出来上がったテントはアウトドアおじさんからの情報によると二年ほど使ったものらしい。だが見たところ穴も汚れもない美品である。
こんな新品に近いものをどうして出品を? と思ったのだが、例の手書きの説明書にその答えがあった。『最近彼女ができまして、新しいテントを購入しました^^;』とのことだ。おめでとう、アウトドアおじさん。
「ふーむ、簡単に設置できるくせに立派な天幕じゃないか。まあ馬車があればさほど必要ないものだろうが、持ち運びできそうだし、歩きの旅では便利だろうな」
完成したテントを前に、親父さんが目を輝かせながらテントの周囲をうろついたり、生地をさわさわ触ったりとせわしなく動いている。テントを見てなんとなくワクワクする気持ちは俺にもわかるよ。
そして最後に中を覗き、なんてことのない様子で俺に声をかけた。
「なあ、イズミ。これ、二人くらい入れるだろう? クリシアも入れてやってくれないか?」
「え? いや、ここにクリシアを寝かせて、俺は馬車で寝るか親父さんと一緒に火の番をしようと思ってたんだけど」
さすがに俺がテントで寝て、クリシアが外っていうのはね。
見た目は変わらないかもしれないが、精神的には俺が歳上なのだから、格好をつけさせてほしい。ちなみに馬車はぶっ壊れてはいるものの、風避けくらいにはなる。
「なに言ってんだ。見張りなんて一人いりゃ十分だし、馬車よりこっちのほうが断然いいだろ。とにかくクリシアも頼むわ」
「そっちこそなに言ってんの? 年頃の娘でしょ。俺みたいなわけわからんやつと一緒なんかありえないって。ほら、クリシアも黙ってないで親父さんに言ってやりなよ」
俺はクリシアが持っているランタンを受け取りながら、親父さんの方に顎でしゃくって見せた。だが――
「わ、私は別に構わないけど? それじゃお言葉に甘えて先に入るから」
そう言ってさっさとテントの中へと入っていった。
「ほらみろ。クリシアはそんなの気にしねえよ。今夜は俺にまかせて二人はさっさと寝てくれよ。な?」
といいながら親父さんは俺の背中をぐいぐいと背中を押し、俺はテントの中へと押し込められたのだった。うーん、クリシアがいいなら、いいのかなあ……。
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