20話 三割増しの味

 俺はモニターのストレージ画面を見つめ、その中からいくつかのダンボール箱を連続でポンポンポンッとタップした。


 すると俺の目の前にテト◯スで十字キー下を押しっぱにしたときのように、不揃いなダンボール箱がガンガンガンと積み重なっていく。


 そのダンボールの塔が崩れる前に地面に並べ、中からヒールを覚えるときに爆買いした鍋とカセットコンロ、ガスボンベを取り出した。


 残ったダンボールはその場で焚き火にぽいっと投げ込んでやると、あっという間に火がついて燃え始めた。ストレージの中にはダンボールのゴミがまだたくさんあるので、この際全部焼いてしまうのもいいかもしれない。


 めらめら燃えるダンボールを眺めながら、ストレージから取り出した泉の水を鍋に注いでカセットコンロで沸かす。やっぱり水を持ってきてよかった。我ながらナイスだ。


 ……あの兄貴があそこで水浴びをしていたと考えるとかなり萎えるけどな。


「これは……魔道コンロか? 俺の知っているものよりずいぶん形が違うようだが」


 親父さんは湯を沸かしているカセットコンロを興味深く眺めているが、俺は気にせず別のダンボール箱から世界で何百億食と売れている某カップラーメンを三つ取り出した。


 これはツクモガミで麺類詰め合わせ20個セットが2500Gで売られていたものだ。おそらく出品者がスーパーマーケットのセールなんかで買い集めたものをネットで転売しているのだろう。


 不要になった物だけではなく、ちょっとした金策としても使われるのがフリマの醍醐味だな。儲けを意識している分さほど安さは感じないけれど、今の俺からするとこういうセット売りはとてもありがたい。


 そしてカップ麺にコンロで沸かした熱湯を注ぎ、しばし待つ。その間に割り箸をストレージから取り出してガルドス父娘に手渡した。


「これはこんな風に、割って使ってくれ」


「へえー。割って箸にするんだ……」


 割り箸を割ってみせると、クリシアが同じように割り箸を割り、感心したように声を漏らす。とりあえず箸自体はこの文化圏にも存在してるっぽいな。


「ところでイズミ、お前は収納魔法も使えるんだな?」


 親父さんがカップラーメンの容器を覆い隠すように両手で掴みながら俺に問いかけた。


「収納魔法?」


「さっき茶色の箱を出していた魔法だよ。俺が死にかけてるときは箱を消しているのも見たぞ? 普通は魔道具に定着させて魔道袋や魔道鞄にして使うんだが、お前みたいに直接出したり消したりするのは初めて見たな」


 どうやらストレージと似た魔法もあるらしい。これからは誰かに聞かれたら収納魔法だと言い張るのもいいかもしれない。


「回復魔法に収納魔法、壁もすり抜けたってクリシアが言ってたし、多才なヤツだよ、まったく。……ところで、さっきからいい匂いがしてきてたまらねえ。そろそろ食べていいか? いいよな!?」


「そうっすね、どうぞ」


「おうっ!」


 親父さんが勢いよくカップラーメンの上蓋をぺりっと剥がし、中身を一瞥する。


「おお、中に麺が入っているのか。湯を入れる前は何か固いものが入っていたが……なるほど、それを湯でふやかしたのか。それじゃあ食うからな!」


 親父さんが、遅れてクリシアが容器の中に箸を突っ込む。そしてまずは少量の麺を箸で摘み、それを口の中へと運んだ。俺はしばらく二人が口をもぐもぐとさせる姿をじっと見守る。そして――


「うめえっ!」

「……おいしい!」


 二人は同じようにピーンと背筋を伸ばして目を丸くした。こういうところを見ると、全然似てないけどやっぱり父娘なんだな。


 二口目からは麺をがっつりと箸で挟み、どんどん口へと入れていった。数口食べた親父さんが、ふうと息を吐いて口を拭う。


「こんな麺にスープ、今まで食ったことねえ。それにこの四角に切った肉? これは何の肉なんだ? これもうめえな!」


 それがなんの肉なのか俺も知らない。謎なのだ。愛想笑いで質問をスルーした。


「スープの多いパスタみたいなものなのかな……。でも麺が縮れてるし、また別の物……?」


 クリシアはぶつぶつと呟きながら、一口食べては観察を繰り返している。そういえば料理スキルを持ってたし、料理好きなんだろうな。


 どうやら二人にも好評のようだ。うれしいね。それを見届けた俺は、ようやく二人と同じようにカップラーメンをずるずると啜った。


 ……うん、うまい! 外で食べると三割増しくらいでうまく感じるよな。不思議だよ、カップラーメン。


 こうして俺たちは焚き火を囲みながら、少し遅い晩飯の時間を過ごしたのだった。

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