18話 決着
あっという間の瞬殺劇だった。不意打ちとはいえ、場馴れした強さみたいなものを感じられる。なんなの? あの親父さん。
ひとまず気になったことをクリシアに聞いてみることにした。
「人質に取られたって?」
「うん、ここを通っていたとき、車輪に何かを投げ込まれて馬車が倒されたの。それで私が外に出たところをあの人たちに捕まって……」
その時のことを思い出したのか、クリシアが涙ぐむ。おう、これ以上聞くのはやめとこ。とにかくこれで一件落着、それでいい。
俺たちは親父さんの元へと向かった。俺は相変わらずクリシアに肩を借りながらだけど。未だにまったく力が戻ってこない。足が生まれたての子鹿のようにぷるぷる震えている。
「おう、イズミ。どうだ? 俺もやるもんだ……ろっ!」
まだピクピクと動いていたナイフ男の頭に角材を叩き込んだ親父さんが爽やかに笑う。ナイフ男は一度大きく身体を跳ねさせ、それからぐったりと動かなくなった。
「え、ええと、これってもう……」
首が埋まってる兄貴、頭がパックリ割れた小男。こいつら、もしかしなくても、もう死んでるよな?
俺の顔を見てなにかを察したらしい親父さんは、ポンと手を叩いた。
「ああっ、しまった! お前だってやり返したかったよな!? すまん、ぶっ殺しちまった! さすがに三人相手じゃ手加減はできなくてな……。こんなことで気が済むとは思わないが、死体でよければ、ぶっ叩いておくか?」
申し訳無さそうに頭をぼりぼりかきながら、赤いモノが染み込んだ角材を俺に手渡そうとする親父さん。
「へっ? い、いや、それは結構です……」
「そうか? 寛大なんだなあ、イズミは」
親父さんはどこか残念そうに角材を肩に担ぎ直した。
うーん、人の死が軽い。これがこの世界の当たり前なのだろうか。やはりここは異世界、バイオレンスでデンジャラスなワールドなんだな……。
「……あっ!」
思い出したように親父さんが声を上げる。
「すまんすまん! クリシア、お前はやっとくよな!?」
「バカッ、そんなのやらないからっ!」
「そ、そうか……」
クリシアに怒鳴られてしゅーんと小さくなる親父。どうやらこのおっさんが特別にバイオレンスなだけのようだ。俺はどこかホッとした気持ちになった。
「それで、どうするんですか? アレ」
気軽にタメ口で話していたハズが、いつの間にか敬語だ。そんな小心者の俺が悪党どもの死体を指差して親父さんに尋ねた。
「ん……ああ。この辺に野盗が出るって話は聞いちゃいなかったし、最近根付いた連中だと思う。賞金首でもないだろうから、後で森の中に捨ててきてやろう。街道に放置して魔物が寄ってくるとよくないからな」
やっぱり魔物もいるのか、この世界。……と思っていると、親父さんは違うところに食いついた。
「なんだ? 神父なのに埋葬しないのはおかしいか? だがな、神もおっしゃっている。悪事を働く輩は魔物にでも食われちまえってな。わはは!」
「もうっ、そんな教えはないでしょ。イズミは記憶喪失で色々混乱しているんだから、からかうのはやめてあげてよね!」
どうやら俺はからかわれたらしい。この世界のことを知らず、からかわれたことすら分からないというのは少し怖くもあるな。クリシアの優しさが心にしみるね。
「記憶喪失……? そういえばイズミ、俺はお前のことを何も知らないな。そろそろ日が暮れるし、野営の準備でもしながら、これまでの経緯を聞かせてくれないか?」
これまでと雰囲気をがらりと変え、理性的な瞳を宿した親父さんが俺に尋ねた。渡りに船だ。俺もこの父娘から聞きたいことはたくさんある。
俺は親父さんに頷いてみせ――MP切れのせいなのか、それとも危機を脱して緊張の糸が切れたのか――直後に視界が暗転し、そのまま意識を失った。
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