15話 ペンダント

 クリシアの使用済みショーツ、果たしてそのお値段は……!


【木綿の下着 1着 取引完了→300G】


 ダメかああああああああああああああ!!


 そういった付加価値みたいなものは付かないらしい。アレな性癖の人に買ってもらえればワンチャンあるか? と思っていたわけだが、よく考えたらこの買取って、どこの誰にどのように売れているのか全くわからないんだよな。


 しかしこの結果にヘコんでも仕方ない。今はとにかく木箱の中身を売りまくろう。



 それから俺は木箱の中の着替えを売りつくし、最後は木箱まで売っぱらった。その結果――


 合計3200Gの収入を得た。これで所持金はこれで37482Gだ。目標金額の5万には全然足りねえ……。


 思わずガクリと膝をついた俺に、クリシアが顔を曇らせて尋ねる。


「……もしかして、ダメ、だったの……?」


「すまん、クリシアの使用済みショーツ、無駄にしちまったよ」


「そっ、それは別にいいんだけどっ! これって、結局どういうことだったの?」


「とにかく高価な物が欲しかったんだけどさ、木箱の中身じゃどうにもならなくて……」


「え? イズミって、高価な物がほしかったの?」


「そうだよ。……言ってなかった?」


「ううん、聞いてないけど」


 よくよく思い返すと、馬車をくれ、馬車の中にある金目の物をくれ、くらいしか言ってなかったかもしれない。


「高価な品ね……。それがあればいいんだ? それじゃあ……これ、あげる」


 はぁとため息をついたクリシアは、自分の首の後ろに手を回して首に巻かれた革紐を取り外すと、それを俺の方へ突き出した。革紐の先端には花を模した銀細工のペンダントが付いている。


「これ、お母さんの形見。お父さんがお母さんと結婚するときに渡したんだって。これを買うのに随分無理したみたいってお母さんが言ってたのを聞いたことあるの。たぶんこれが私の持ち物で一番高価だから」


 クリシアにとって大事なペンダントのようだ。俺の回復を受けてなんとか命を繋げている親父さんも、懐かしそうに目を細めたように見える。


「……いいのか?」


「いいよ。お父さんを助けてくれるんでしょ?」


 クリシアは「んっ」と言って、もう一度ペンダントを突き出した。


「ああ、これならきっと……。悪い、これ貰うな?」


 俺はクリシアからペンダントを受け取り、出品を念じた。今度こそ、頼む……!


【銀細工のペンダント 1つ 取引完了→35500G】


 よっしゃあ!! これで所持金は72982G! 目標金額クリアだ!


「イズミ……どうだった?」


 ペンダントが消えた俺の手元を一瞥した後、不安げな表情でクリシアが尋ねた。


「ああ、ペンダントのおかげで一番の難関を突破したところだ。もう少し待ってくれよな」


「わ、わかった……」


 真剣な顔でクリシアはうなずくと、親父さんの手をぎゅっと握った。


 親父さんの顔は相変わらず真っ白。俺がヒールをかけ始めてから状態は悪くはなってないが、さほど良くもなっていない。予断は許さない状況だ。


 次は5万G分のなにかを購入して500☆を獲得しなければならないのだが、ゆるりとカタログショッピングとしゃれこんでいる時間はないだろう。


 あの膨大なカテゴリ群から欲しいものを探すのは時間がかかるし、ある程度目星を付けたらガンガン買い漁るしかない。焦る気持ちを抑えつつ、ツクモガミからフリマ画面を覗いてみた――


「おおっ!?」


 突然声をあげた俺をクリシアが怪訝な顔で見つめる。でも仕方ないだろう、ツクモガミに検索窓が新たに実装されていたんだから。


 そういえば鋭意製作中とか謎コメントが書かれてたっけな。どうやらヤツの仕事は早いらしい。これならサクサクと検索できるぞ!


 さっそく俺が密かに欲しいと思っていた物の中で、一番高額なもの――テントを検索した。今後は野宿も視野に入っているからな。これは絶対に欲しいと思ってた。


 検索窓をタップすると浮き出てきた半透明のキーボードで「テント」と入力。すると、テント関連のものがずらーっと画面に並ぶ。


 とりあえず手頃な大きさのものが35000円である。説明文によると、大人二人は余裕で寝られるサイズなんだそうだ。やっぱり高価な代物だとも思うが、金を使わないことには☆が貰えないからな。購入決定だ。


 だが、ポチる前に出品者を念入りにチェックすることにしよう。理屈はわからないけれど、粗悪品を引いてしまうと☆が貰えないシステムになっているからな。


 高額品だけにその失敗は許されない。ここは慎重にいこう。さて、出品者は――


【アウトドアおじさん】

 いいね186

 悪いね1


 悪いねが1つだけあるが、圧倒的いいね数。これならきっと……問題ないよな? 優良出品者と認定しよう。


 っていうか悪いねってなかなかストレートな表記だな。今どきはネガティブなBAD評価はフリマに限らず減少傾向にあるらしいのに。……まあいい、今度こそ購入っと。


 俺の真横にドカンと大型ダンボール箱が落ちてきた。


 親父さんとクリシアがびっくりしているが、とりあえず中身はあとで確認するとしてすぐさまストレージに収納。よし、☆もしっかり350増えている。残り150☆を稼ごう。


 寝床は確保した。次は食事用にステンレスの鍋と……洗うのが面倒だし使い捨てでいいだろう、紙皿、紙コップ、割り箸と購入していく。


 もちろん火をおこす物も必要だな。……アウトドアの番組や漫画でよく見るシングルバーナーはかっこいいとは思うけど、ここは慣れ親しんだ卓上コンロにしておくか。それとガスボンベも……っと。


 その後も細々とした物を買いあさっていくと、あっと言う間に5万Gの爆買いが完了した。


 貯まったスキルポイントは512だ。よし、今度こそ覚えるぞ。


【ヒール+1】

《スキルポイント500を使用します。よろしいですか? YES/NO》


 俺は万感の思いを胸にYESをタップした。

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