14話 Gがない!

 もう一度ツクモガミで確認してみた。俺の所持スキルポイントは4、所持金は34282G。全部買い物で使っても346☆くらいか? やっぱり500には全然足りないじゃねーか!


 しかし、だからといって諦めるにはまだ早い。つい数時間前には森で拾ったマツタケもどきが2万Gで売れたのだ。あの時と同じように高値の物を拾って出品し、金を稼げばいい。それだけだ。


 問題はこの場所に、都合よく金目のものが落ちてるかって話なんだが……実はアテはある。


 そのアテとは――目の前に転がっているこの馬車だ。ちなみに馬は馬車が倒れた拍子に馬具が外れて逃げ出したのか、すでにいない。


 この馬車は木製の箱型のものに車輪がくっついたようなシンプルな物なんだが、だからと言ってこれが1000Gや2000Gでしか売れないってことはないと思う。馬車の値段なんて知らないけどな。


 目標金額は16000G以上。とにかく今は緊急事態だ。説明に時間を費やすのも惜しい。勝手に売るけど許してくれ。


 俺は右手で父親にヒールを放ちつつ、左手で馬車に触れて出品を念じた。


《他者の所有物を出品することはできません》


 ビープ音とともに流れるメッセージ。


 やっぱダメかー。そんな気もしたんだよな。ストレージも他人の物は収納できなかったし、それなら売るなんてもっとダメだよなー。こうなると所有者にお願いするしかない。


 俺は一度エヘンと咳払いすると、父親に話しかけた。


「あの、親父さん。ちょっとお願いがあるんだけど……この馬車を俺にくれないかな?」


「ちょっ……イズミ! こんな時に何を言ってるの!?」


 目を吊り上げてクリシアが怒鳴る。そりゃ怒るよな、俺だってクリシアと同じ立場なら怒るわ。


「まあまあ、クリシア。君の気持ちはわかるけど、君の親父さんを助けるためには大事なことなんだ。詳しい説明する時間も惜しいし、ここは俺を信じてくれないか?」


 その言葉にクリシアはウッと息をつまらせると、困ったように父親の方を見た。さすがに俺もある程度は信頼してもらっているようだ。助けた甲斐があったよ。


 そしてクリシアから促された父親が弱々しく声を漏らす。


「かまわ、ん……お前に……やろう」


「ありがとう!」


 俺はさっそく再び馬車の出品を念じ――


《破損物の出品はできません》


 あああああああああもおおおおおおおおおおおおお!! 結局売れないのかよ!


 こうなりゃもう最後の手段だ。


「クリシア、馬車の中に何か金目のものって残ってないか? あるならそれ、俺に全部くれ!」


「えぇ……。君、なんだか追い剥ぎみたいになってきたね……」


 俺の物言いにさすがのクリシアもドン引きである。でもいい加減、俺も切羽詰まってきたのだ。


「俺が探せばいいんだろうけどさ、今は治療中だからさ。だから頼むよ!」


 この回復魔法がなんとか父親の命をつなぎとめているのだ。手は離せない。


「わ、わかった。野盗の連中もカンテラとお父さんの財布くらいしか持っていかなかったし、だからきっとアレが……」


 クリシアは横倒しの馬車に乗り込み、なにやらごそごそとやりだした。そしてしばらくすると、トランクくらいの大きさの木箱を持って戻ってきた。


「座席の下に収納していたお泊り用品を入れた木箱よ。これくらいしかないけど……」


 そう言いながらクリシアは木箱をパカリと開ける。そこには父親とクリシアの物と思われる衣服が詰め込まれていた。


 まずは父親の服を手に取り出品を念じる。


【麻の上着 1着 取引完了→300G】


「き、消え……」


 父親が突然消えた服に驚いたのか声を漏らす。クリシアは座敷牢でダンボール箱を収納してみせたからか、目を見張っているもののそこまで驚いてはいない。


 まあそんなことより上着安いな。次だ次。


【麻の肌着 1着 取引完了→250G】

【麻の肌着 1着 取引完了→200G】

【麻の下着 1着 取引完了→100G】


 お泊りも短期間だったのか。もう父親の分はこれで終わりだ。さて次だ。目に付いたのは、小さく丸められた白い布。なんだこれ?


 俺はそれを手に取――ガシッと腕を掴まれた。クリシアだ。


「あ、あの、これまだ洗濯してなくて……。触らないでくれると、嬉しいんだけど……」


 ああ、これはもしかしてクリシアのショーツか?


「大丈夫だよ。俺は気にしないから」


「わ、私が気にするのっ!」


「気持ちはわからないでもないけど、親父さんの命がかかってるんだって。これで助かるかもしれないんだよ?」


「ほ、本当に?」


「そうだよ。だからホラ、手、離してくれる?」


 俺の言葉にクリシアはう~っと唸ると、


「~~~~~! わ、わかったわよ! 穿くなり被るなり、好きにしてよっ! もうっ!」


 赤い顔で声を張り上げた。そんなことはしないぞと言い返したかったが、さすがにじゃれてるヒマはない。さっさと売っぱらおう。


 さあ、頼むぞ。美少女のショーツだぞ! 洗濯前だぞ! 高値をつけてくれ!


 俺は丸まったショーツをぐっと握りしめ、出品を念じた。

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