13話 回復魔法

「お父さんっ!」


 半ば悲鳴のような声を上げたクリシアは、血まみれの男に向かって走る。


 血まみれの男――父親は駆け寄る娘の声に反応したのか、気だるそうに顔を上げた。生きていてくれたみたいだが、その顔は青白く、周辺には体から出尽くしたとばかりに大量の血が広がっている。


「お父さんっ! お父さん! 死んじゃいやあ!」


「リ、シ……」



 唇を震わせて声にならない声を絞り出す父親。クリシアは自分が血まみれになるのも厭わず父親にすがりつき、涙声で叫び続けている。


 どう言葉をかければいいのかわからない。俺は医者でもなんでもないけれど、これはもう――


 ビビビビビビビビビビビビビビビビ!!!


「うおっ!」


 ツクモガミのビープ音が突然鳴り響いた。……そうだよ、重苦しい空気に飲まれていたが、俺にはコイツがある。ここまでついてきたんだ。やれることはやってみるべきだろう。


 ……なんだかツクモガミに活を入れられたような気分だな。少し情けない。


 とにかくまずは行動だ。俺の推測が確かなら――


「なあクリシア」


「お父さん、やだっ、お父さん!」


 ダメだ、聞いちゃいないな。もういいや、勝手にやろう。


 俺はクリシアがしがみついている父親の頭をポンと触る。死の間際の父親は、それで初めて俺の存在に気づいたらしく、一度ぼんやりと俺に視線を向けるが、すぐに娘に戻した。俺なんかに構っていられる状態ではないのだろう。


 俺はツクモガミの取得可能スキルの精神スキル欄をタップした。


【スキルポイント】24

《現在習得可能な精神スキル》


【ヒール】

【キュア】


 ヒールが回復でキュアが解毒だろう、ゲーム脳的に考えて。俺の考察通り、回復魔法が覚えられるようになっているな。


 思い起こせば、俺が座敷牢に入れられた時に蹴ってきた小男。あれが物騒なスキルの持ち主だったのだろう。


 そして変化したときの家庭的なスキルは手を繋いだクリシアのスキル。そして今は神父の父親が持つスキルだ。


 つまり俺は最後に触れた人物の持つ技能を、スキルポイントを使って覚えることができるのだ。


 さっそく【ヒール】をタップ。


《スキルポイント20を使用します。よろしいですか? YES/NO》


 今となっては珍しく変なテキストの割り込みはない。スキルの説明がないのは不安だが……まあ大丈夫だろう。もちろんYESだ。


《ヒールを習得しました》


 よし、覚えたぞ。体に衝撃は走ると同時に使い方も理解した。これが回復魔法で間違いないようだ。俺は即座にヒールを発動させる。


 手のひらから柔らかな光が放たれた。俺はそれを父親に向けてあててみる。


「……イズミ、それって……回復、魔法?」


 ようやく俺に気づいたクリシアが涙でぐしゃぐしゃの顔を上げて呟く。


「うん、なんかできるようになった。傷口に近づけたいからちょっと離れて……」


「う、うん!」


 すぐにクリシアは場所を空けてくれた。俺は父親の服をめくり、なんか見えちゃいけないモノが見えてるような気がする傷口に手のひらを向ける。


 じわじわと、傷口が治っていくような手応えがある。父親の呼吸も若干持ち直したようにも見える。だが……


 虫の息といわんばかりの父親が声を発した。


「こ、の傷は深い……おそらく、治らん……。この、場所は危険……きっと、野盗が……。誰かは知らんが……娘を連れて、逃げて、くれ……頼、む……」


「いやっ! お父さんを置いてなんて……」


 クリシアが涙を流しながら再び父親にすがりつく。


 このままじゃあ確かにダメだ。全快するような手応えがない。しかしまだ手がある。壁抜けの時のようなスキルのレベルアップだ。


 すぐさま俺はツクモガミをチェック。


【スキルポイント】4


《習得スキル》

【縄抜け】

【夜目】

【壁抜け+1】

【ヒール】▼


 よーし、よしよし。▼マークがある。スキルのレベルアップできるってことだ。今はポイントは4しかないけど、金は34000Gくらいあったはずだ。


 つまり仮に全額を商品の購入にあてると、340ポイントも貰えることになる。まずはレベルアップに必要なポイントをチェックしよう。


【ヒール+1】

《スキルポイント500を使用します。よろしいですか? YES/NO》


 は? いきなりインフレしすぎじゃね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る