12話 自己紹介
女の子の案内に従い、森の中を駆け足で進んでいく。
ひとまず脱走は成功したと言っていいだろう。リーダー格の兄貴は泉に向かい、見張りの子分はまだ脱走に気づいていない。後は俺たちの脱走になるべく気づかないことを祈るばかりだ。
だが思ったよりも
足をもつれさせながらも走ろうとする彼女をなんとか説得し、今は少し歩きながらの移動中だ。
この機会にようやく互いに自己紹介をすることができた。女の子の名前はクリシア。父親は村の教会で働く神父で、彼女はその手伝いをしているらしい。
先日まで父親と二人で近隣の集落の
俺は自らをイズミと名乗った。これまでの経緯については――気がついたら森の中にいた。名前以外なにも思い出せない。うろついてたら小屋を見つけて、後は君も知っての通りだ――と説明。
異世界転移をしたなんて誰にも言うつもりはないし、かと言って現地民ぶったところでボロが出る。記憶喪失で通すのが一番いいと考えたのだ。
「お父さんは回復魔法が使えるの。あの傷を全快させるなんてとても無理だけど、それでも……!」
クリシアが唇を噛みしめる。生存に
「回復魔法?」
「うん、村ではお父さんだけが使えたの。……あっ、イズミはもしかして……回復魔法、使える?」
少し期待を帯びたようなクリシアの問いかけに、俺はツクモガミを呼び出す。回復魔法というのは【精神スキル】にあたるのかな? ぽちっと。
だが【精神スキル】欄をタッチしてみても、そこにはなにも見当たらなかった。【身体スキル】の方もからっぽだ。
念のため、さっきも見た【特殊スキル】欄も見てみよう――ファッ!?
【現在習得可能な特殊スキル】
【裁縫】
【掃除】
【洗濯】
【料理】
【祈り】
【恫喝】だの【脅迫】だのという物騒なスキルが消え、変わりになんともほんわかで家庭的なものにすり替わっていた。どういうことだ?
とりあえず、その中でなんとなく気になる【祈り】というスキルをタップしてみる。
《スキルポイント10を使用します。よろしいですか? YES/NO 朝に祈ればその日のLUK値が+1されるだけスキルじゃ。あまりおすすめはせんぞ? あと検索窓については鋭意製作中じゃかrタn縺9ァ》
事前に性能を教えてくれるのはありがたいけれど、どんどんカオスになってきてるなコイツ。とりあえず忠告に従って【祈り】を覚えるのはやめとこ……。
というか、さっきまでのスキルと、今のスキル……。うーん……。
俺は隣を歩くクリシアを見つめる。すると俺に何か言いたげな顔をしているクリシアと目があった。あー、やっぱ美人だなこの子。
「あの……イズミ?」
クリシアの声に、会話の途中だったことを思い出した。
「ああ、回復魔法は使えないんだ。ごめんよ」
「ううん、謝らないで。私だって使えないし……。神父の娘なのに回復魔法も使えないなんてね。ほんと、私って……」
「大丈夫だって。回復魔法が使えなくたって、教会で何もやっていないわけじゃないんだろ?」
世の中、才能のある人をサポートする方々がいてこそ回っていくのだ。自分が一番になれないからって卑下することはない。前の世界の理屈だけどね。
「お洗濯やお掃除なんかは全部私がやってるけど、それでも……」
クリシアの顔は晴れない。だが、これってやっぱり……。
そんな俺の考えがまとまるよりも早く、クリシアが頭をぶんぶんと振る。
「ううん、そんなことより今は早く行かないと。イズミ、もう休憩は十分だよね?」
「そうだな、いけるよ」
俺たちは頷き合うと、再び馬車へと急いだ。
◇◇◇
それから再びヘトヘトになるほど森を駆け抜け、夕暮れが迫ってきた頃。突然クリシアが声を上げた。
「見えた、あの馬車!」
クリシアの指差す方向、ようやく森を抜けた先に見えたなだらかな平原には、打ち捨てられたように一台の馬車が横倒しになっている。そしてそのすぐ傍には血まみれの男が一人、力なく横たわっていた。
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