9話 スキルポイント
56という数値には見覚えがある。俺がツクモガミを利用して得た☆と同じ数だ。……つまり、☆はスキルポイントとかいうモノとして使えるということか?
画面の一部分が点滅している。【特殊スキル】と書かれた欄だ。ここを押せということだろうか。
しかし手を後ろで縛られてる俺にはモニターを押せない。……そうだ、この荒縄をストレージに入れてみよう。
《他者の所有物は収納できません》
ビープ音と共にこんなメッセージが画面に表示された。
どうやら窃盗を防止する機能まであるらしい。そもそもこの縄ってあいつらの所有物なの? 結構厳しい判定だなあ。
それじゃあ後はコレしかないよな……。あまり人に見られたくはない姿だが、幸いなことに女の子は膝を抱えて俯いたままだし、構わないだろう。
俺は舌を突き出すと、その舌の先でモニターを押してみようと試みた。だが俺が頭を動かすと……モニターも動く! 違う、そうじゃない!
という俺の魂の叫びが届いたのか、モニターはぶるぶると小刻みに震えた後、ピタリと動かなくなった。
今度こそ舌を突き出し顔をモニターに寄せた俺は――他を押せばどうなるの? っと、【身体スキル】を押してみた。
BUBUBUBUBUBUBUBUBUブブブブブー!!!
うおっ! 今まで聞いたことがないくらいの大音量のビープ音が! そして激しく点滅する【特殊スキル】欄! うるさい! まぶしい!
うへえ、なんだかすごく怒られているような気分だ。いや、ほんとすいませんでした。ちょっとした好奇心だったんです……。
俺はなんとなくモニターに向かってペコリと頭を下げると、どういうわけかモニターが呆れたように首を振ったように見えた、首なんかないけど。
そんな様子に眉をひそめながらも、今度はしっかり【特殊スキル】の欄に舌で触れる。スッと画面が切り替わった。
【現在習得可能な特殊スキル】
【挑発】
【解錠】
【縄抜け】
【恫喝】
【脅迫】
【悪心】
【夜目】
なんだか物騒な名前のスキルが並んでいるなあ。その中で、【縄抜け】【夜目】
の二つが点滅していた。
これを選択すれば、その技能が俺に備わると思っていいんだろうか……? これまでも不思議なことがいろいろあったし、今更んなわけねーだろ(笑)、なんて思うつもりはないけどさ。
今度はモニター様を怒らせないように、まずはしっかり【縄抜け】と書かれた部分に舌で触れる。
《スキルポイント10を使用します。よろしいですか? YES/NO》
はいはい、イエスイエスと。
ぺろんと舌でYESを舐めた瞬間――まるで身体に雷でも落ちたかのような衝撃が走った。
「うべあっ!」
思わず声を上げてしまう。
「うるせえっ!」
向こうから扉を激しく叩かれた。だが、そんなことを気にはしていられない。……どうやら本当にスキルとやらが手に入ったようだ。それが感覚として理解できた。
使い方も自然にわかった。俺はさっそく【縄抜け】を発動――
するとまるで手首や足首の骨が無くなったかのようにスルスルぐにゃぐにゃと自在に動き、あっという間に俺は縛られていた縄から抜けることができた。
「おお、すっげ……」
今度は声を潜めて呟く。そういえばさっきは大音量のビープ音も流れていたけど、子分がアレに反応していないってことは、あの音は俺にしか聞こえないのか。そうするとモニターも俺にしか見えないものなのかもしれない。
手足が自由になった俺は、今度は【夜目】を習得しようと舌で――モニタがスッと後ろに下がった。ああ、そういや手が自由になったんだった。っていうか、いま明確に避けてきたよな、このモニター……。
今度は指でポチッと押す。同じく10ポイントだ。YESを選択すると再び全身に衝撃が走るが、今度は覚悟をしていたので声を出さずに済んだ。
【夜目】を習得したおかげで、薄暗い座敷牢の中がくっきりと見えるようになった。……なったけど、それだけ? いやコレ別にいらなくね?
そんな俺の不満が伝わったのか、モニターが上下に細かく動き、ほんのり赤色に染まる。すっごい怒ってるみたい。どんどん感情みたいなもん見せるようになってきたなあコイツ。
そんなモニターには次のように表記されていた。
《スキルコンボ発生》
《壁抜けを習得可能になりました》
そしてさっきまでの習得可能スキル欄に新たに【壁抜け】というものが表示され、それが点滅している。
スキルコンボねえ。特定のスキルを習得しないと出てこないスキルなのかな? そういうゲームもやったことがある気がする。
とりあえずゲーム知識のおかげで混乱せずに済みそうだ。俺がやりたくねーと言ってるのに、無理やりゲームを押し付けていった後輩の田口にちょっとだけ感謝の気持ちが湧いた。
そういえば元の世界は今どうなってるんだろう。俺は行方不明で捜索なんかをされているんだろうか……。いや、そんなことより今は現状をなんとかしないと。俺は【壁抜け】を押した。
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