7話 原住民発見
靴底のすり減ったスニーカーで地面をしっかりと踏みながら歩く。こんな詐欺まがいの物でも、もちろん裸足と比べると段違いの心地よさだ。俺はクレヨン片手にゆるやかな斜面を下りながら人里を目指した。
ちなみに俺を追尾していたツクモガミのモニターは俺の意思で出したり消したりすることができると判明したので、今は出していない。目の前でチラチラされるとなんだかうっとうしいからね。
道中、気になるものがあればとりあえず手に取り、出品できるかどうかを試した。だが今のところ、地面に落ちている枝や葉っぱはひとつも出品できていない。ストレージには収納できるんだけど。
「おっ……?」
大木の根本に大きなキノコを発見した。小ぶりな傘がついていてにょきっと長い、地球のマツタケみたいな形。これは期待できそうだ。
でもキノコって毒がありそうで怖いよな。俺は木の枝を駆使してなんとかキノコを掘り起こし、指先でちょんと根本を触りながら出品を念じた。キノコの姿が瞬時に消え、目の前にモニターが現れる。
【マクロード茸 1本 取引完了→20000G】
えっ、これ一つで2万G!?
なんとなく立派なキノコだし売れるのかなとは思ったけれど、本当に売れてくれた。やはり価値のある物だと出品できる傾向にあるのだろうか。
思い返せば最初に売れた草は他の雑草とは違っていい匂いがしたし、泉の水ももしかしたらいわゆる名水と呼ばれるものだったのかもしれない。
こうなってくると山の中で出品できそうなお宝探しをしたくなってくるんだけど、残念ながら今はそんなことしてる場合じゃないんだよな。
とりあえず日が暮れる前に人里を見つけるか、もしくは泉に引き返すか、そろそろ判断しないといけない。
◇◇◇
今日の探索を諦めかけた頃、ついに森の中でぽつんと建っている掘っ建て小屋を発見した。かなりボロい平屋建てだが結構な大きさだ。俺はさっそく小屋に向かう。
「すいませーん……」
声をかけながら扉を開ける。建て付けの悪い扉がギイと音を立てた。小屋の中はしんとしていて物音ひとつしない。
「すいませーん」
再び声をかける。そういえば、異世界で言葉は通じるのだろうか。通じなさそうなら、その時はボディーランゲージだ。海外旅行で試したことがあるが、案外わかりあえるものだ。
だがそんな俺の意気込みもむなしく、そもそも小屋の中には誰一人いなかった。大きなテーブルと椅子、端の方にはいくつかのベッドもある。全てにボロいという形容詞をつけたい。
けれどもここには人がここで住んでいるといった雰囲気がある。
具体的にいうと、テーブルにいくつか雑に置かれた木製のコップが底に少し中身が残ったままだからだ。洗って乾かしたりしないのかな……。あまりいい衛生状態とは言えない。
それはさておき、ずっと放置されている小屋ではなさそうだ。たまたま留守だったように思える。
さらに部屋の向こう側には隣の部屋への扉も発見した。扉を開けてさらに奥へと進んでみたい気持ちもあるけれど、ここが留守だとすれば、これ以上勝手に立ち入るのもまずいよな……。とりあえず外で待たせてもらおうかな?
そう思い、背後に振り返ったところで、後ろにいた男と目が合った。
「なんだぁ、てめぇ……」
そう言って俺を
金髪碧眼で彫りの深い顔。あきらかに日本人ではない。でも、言葉がわかる……。いや、日本語を話してるようには聞こえないんだけど、どういうわけか意味は理解できる。なんだこれ?
しかしそんなことより今一番気になるのは、男が片手に持っている斧だ。
刃先はしっとりと赤色に染まり、ついさっき何か生き物をぶっ叩いてきましたよと言わんばかりの存在感を放っている。穿いているズボンもところどころ赤く染まり、どうみてもカタギには見えない。
「あ、あの……、誰かがいると思ってお宅を訪ねてみたんですが、お留守だったもので……」
「…………」
男はそのまま俺を睨みつけているが、さらに男の背後から何か騒がしい声がした。女の人の声だ。
「いやっ、やめてっ!」
「大人しくしねえか! って兄貴ィ~、入り口で突っ立って、どうしたんですかい?」
その声に目の前の兄貴と呼ばれた男が顎をしゃくってみせる。
「ああ、見なよ。この野郎が図々しくも俺たちの根城に盗みをかけにきたらしくてな」
「えっ、違いますよ! 全然そんな気は――」
「うるせえ!」
男が叫んだ瞬間、目の前に火花が散ったような気がした。頬に激しい痛みが走る。痛えっ! コイツいきなり殴ってきやがったぞ……!
殴られた弾みで倒れ、床に這いつくばった俺を、女の子を拘束している背の小さい男が見下ろす。
「兄貴ィ、そいつどうします!?」
兄貴はゴリラのような太い腕を組み、品定めをするように俺をじろじろと見つめる。
「そうだな……。ぶっ殺しても得にならねえし、せっかく生け捕ったんだからよ、この女と一緒に奴隷商に売りつけるか。なんか良い服着てるし、これも売れそうだぜ。がはは! 今日はツイてるな!」
「わかりやした兄貴。それじゃあ今夜はお楽しみですかね?」
小男が縛り上げた女の子を兄貴の前に引っ張り出す。
「もちろんよ。一度痛い目にあわせたほうが大人しくなるだろうしな。……おら、お前もいい加減黙れ。それとも、あいつみてえに殴られてえか?」
女の子は一度俺を見て、それから泣き顔をふるふると横に振った。
「よおし、大人しくしているならそれなりに扱ってやる。大事な商品だしな。おい、あいつも縛り上げろ」
「ウッス」
他にもまだ仲間がいたらしい。兄貴と小男の後ろから出てきた男がすぐさま俺の傍までやってくると、ナイフと縄を取り出す。
「えっ、あの、なにする気ですか!?」
「……黙りな。それともナイフ食いてえか?」
俺がブンブンと首を振ると、男は俺にナイフを突きつけながら、なんとも手慣れた様子で俺の手足を縛り上げていく。
じんじんとする頬の痛みに耐えながら、黙って手足が縛られるのを見ていたが――そろそろ状況を確認しよう。
今ここにいるのは、俺を殴ったボス格のゴリマッチョな兄貴、俺を縛ったナイフ男、女の子を捕まえている小男。それと女の子の四人だ。
規模としては小さい気がするが、強盗団みたいなものなんだろうか。会話を聞く限り、この男ら三人でなにかを襲撃して女の子を拉致してきたようだ。
そして意気揚々と根城に戻ってきたところで俺がマヌケにも鉢合わせし、ついでに捕まったということか? ついてないにもほどがある。
自分の不運を呪いたくなってくるが、今は恨み言を言っている場合でもない。奴隷商に売るとか言ってたし、すぐそこに身の危険が迫っているのだ。
そんな風に考えを巡らせていると、兄貴が俺をちらっと見下ろし、腕をぐるぐると回しながら声を上げた。
「さてと、売っぱらう前にお楽しみと行きてえとこだが、ちっと汚れちまったからな。泉で血を落としてくらあ」
「兄貴はきれい好きっすねー。お楽しみってどっちを楽しむんで?」
「バーカ、両方に決まってんだろ!」
兄貴が俺に向かってニチャリとした顔を向けると、その直後に俺のオケツがひんやりとした。これはいけない、早くなんとかしないと。
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