第6話 大きな収穫

「っ!」


アラームの音で目が覚める結局1つ目のアラームで目が覚めたようだ。時刻は5時。

ここから事務所まで20分。渡辺さん宅なら30分程度だ。朝の準備を終え時刻は5時57分。余裕と思っていたが結構ギリギリだ。家を出て昨日家に入っていく真さんを見たあの角へ歩を進める。ついたのは6時30分ギリギリだった。渡辺さん宅でも周囲の家でも朝の準備をしている人が多いと見え子どもを起こす母親の声や洗濯ものを干す人など朝の忙しい時間と言った感じが伝わってくる。俺はジャージを着て周囲をランニングしている人物を装っている。時刻はそろそろ7時になろうかと言うところ。


来た。扉を開け、『行ってきます。』とつぶやくように真さんが言う。

俺は真さんを追い越し、近くの公園まで走る。そこでトイレに入り、スーツに着替え今日はジャケットの胸ポケットにペン型のカメラを入れ。真さんを待つ。しばらくして真さんがやってきた。俺は真さんが公園を通過するのを待ってから、また4~5m後ろをつけていく。

そして裕也に『対象が駅に向かっているからな。』と連絡を入れ、カメラの電源を入れる。


真さんはすでに暗い、暗い雰囲気が感じられる。そのまま駅に到着した。駅には裕也がすでに張っており、俺たちはホーム上で合流した。


「おざっす」


「遅刻しなかったんだな」


「当たり前じゃないっすか」


「今日はなんか掴めますかね? 」


「さぁどうだろう。だが時間がないのも事実だ」


「そうすね」


「だが焦って発覚することの方がもっとまずい」


「ですね」


そんな会話をしながら真さんを観察してみると本当に暗い。会社か家庭かあるいは他かかなりストレスとなっているとこがあるのだろう。不倫の原因として精神的よりどころが欲しいからなんてこともある。『はぁ。』とまたも真さんはため息をつく。演技にしてはリアルすぎる。やはり俺たちには気が付いていないようだ。いや、そんなことを気にする余裕もなさそうにも見える。結局その様子は出社まで変わることはなかった。


「なんか疲れてないすか真さん」


「あぁ。俺にもそう見える」


「不倫してる人ってこんな感じなんすか? 」


「いや、あんな雰囲気ではないと思う」


「じゃあどうしたんすかね? 」


「不倫をしている自分に嫌気がさしているとか? 」


「あー悪いという自覚があっても止められないっていうヤツですか? 」


「とにかくわかんねぇ。まだ証拠がないからな」


「そうっすね」


「昼までまだ結構あるっすけどどうするんすか? 」


「決まってるだろ。張り込みだよ」


「マジっすかハードワークっすね」


「いまさら言っても遅いぞ(笑)」


「就く職業、間違えたっすね(笑)」


「今更か(笑)」


俺たちは昼まで昨日と同じ持ち場で張り込みを行うことに決め12時まで出入り口を張ったがどうやら真さんは営業ではないらしく会社から出ることはなかった。


そして12時俺たちは社員食堂が見える位置に移動し、食堂の入り口を見張る。


「あっ!来たっすよ!しかも女と一緒っす! 」


「興奮しすぎだ。写真は撮った」


「あれが不倫相手っすかね? 」


「だろうな。初めて笑っているところを見た」


真さんが初めて笑顔を見せたのである。俺たちは尻尾をつかめて笑顔がこぼれそうだった。こうなれば証拠をつかむのに時間はそれほどかからないはずだ。


「随分と親しい関係のようだな」


「みたいっすね。でもあんまりいい話じゃなさそうっすね」


「奥さんといつ分かれてくれるのよ!? 」


「いや、そのうちね」


「いつもそればっかりじゃない」


「おい! 」


「はい? 」


「勝手にアフレコするな馬鹿! 」


「馬鹿じゃないっすよ」


「だけどほとんど決まりだろうな」


「そうなんすか? 」


「まだ、確定ではないが、おそらく99%だろうよ」


「うーん」


「なんだよ? 」


「いやーなんかあるような気がするんすよねー(笑)」


「何にもないよ」


「そうすかね」


「そうだ」


「よし、今日から別行動だお前は真さん、俺はあの女を調べる」


「はーい」


「なんだよその返事は」


「いや、分かりました」


「やっと掴んだな」


「そうっすね」


「よし、今日は大きな収穫だ」


 それから昼休み中ずっと真さんは謎の女と居た。やはり不倫で決まりだろう。それから夕方まで、俺たちは張り込みを続けた。そして17時30分ごろ、女が出てきた。俺は裕也に『女が出てきた。これから尾行する。お前は正面入り口を見張れ。』と連絡し、俺は女の後を追う。女は艶のある栗色のロングヘアーにスーツがよく似合っている。駅に向かう足取りは軽く真さんとは全く違う雰囲気だ。調査とはいえ、やはり女をつけるのは罪悪感がある。

 そのあとも全く怪しむこともなく女は駅についた。そして電車に乗った。だが、真さんとは真逆の方向の電車に乗ったのだ。

普通、不倫相手は、対象の周辺人物であることが多いのだがこの女は違う、会社が同じだからと言ってもあれだけの大企業だ従業員はかなりの数であろう。部署内にも多くの女性従業員がいるはずだ。やはり、真さんの不倫相手は別にいるのだろうか?

 そんなことを考えながら電車は終点まで、1時間30分ほど走っただろう。女はそそくさと電車を降り、別の路線へと乗り換えていった。それかから2駅ほど駅を通過し、女は電車を降りた。時刻は19時40分である。そろそろ真さんの退勤時間だなと考えていると

『今、真さんが出てきました。これから尾行します。』と裕也から連絡が入る。『頼むぞ。』

と返し、女の後をつける。怪しむ様子はなく、軽快な足取りで歩いて行く。そして20分ほど歩いたであろう。あるアパートに女は入っていった。そして3階の一室に明かりがともる。

女以外このアパートに入った者はいない。ここが女の家で間違いないようだ。


「ここか」俺は呟き、裕也に『女の家が分かった。これから戻る。』と連絡し、駅に向かう。

 だが、今回はうまくいきすぎている気がする。不倫相手の女と言うのは、用心深くすぐに感ずかれてしまう。急にこっちに引き返して来たりして、こっちにゆさぶりをかけてきたりするものなのだが、あの女は全く疑うこともなくホイホイと家まで連れてきてくれた。やはり真さんの不倫相手ではないのだろうか?裕也が何か手掛かりを掴んでいてくれるといいのだが…


時刻は22時30分ごろであろう。俺はやっとの思いで事務所へ戻ってきた。


「お疲れっすー」


「本当に疲れた」


「随分遠いみたいっすね」


「あぁ、結構な」


「そっちはなんかあったか? 」


「なーんもないっすね」


「やっぱり別の女がいるのか? 」


「どうっすかね」


「明日も今日と同じ感じっすか? 」


「あぁ、そうだな。今日はとにかく疲れた」


「ほんとお疲れした」


「あぁ、お前もな」


そういって俺は事務所を後にして帰路に就く。そして昨日と同じくアラームを3つセットして眠った。


~続く~

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