第16話
「どうですか部長、自信作です!」
「う、ううむ……」
夏休み20日目。最終日が29日目なので大体三分の二が過ぎた日。俺は久しぶりに美術室に来ていた。
長期休暇中の活動は実質完全自由参加だ。顧問が学校にいる日、という縛りはあるが、美術部顧問の茂木先生はほぼ毎日学校に来て自分の作品を作っているので、好きな日に来れば良いと言っても過言ではない。
「すまん、俺にはこれの良し悪しが判断できん」
「えー最高に可愛く描けたと思うんですけどねぇ」
芸術は自由だ。つまり美術部で萌え系の作品を描いても良いということだ。
人によって世界がどう見えているのかは千差万別であり、人の捉え方を他者は否定出来ない。他者の自己表現を否定することも出来ない。であるからして……副部長で3年生の
部長的には不評のようだったので、出来上がった絵は本人に進呈する。
「わはー、なにこれ色っぽ!私超色っぽい!」
「どうでしょう。オリジナルヒロインの郡山
「いーじゃんいーじゃん、めっちゃ可愛い!アイコンにしよー」
「本人が良いなら、まぁ構わんか……」
完全デジタル絵の修行には一区切りの目処がついた。高校生が一夏練習して至れる最善までは至ったはずだ。これ以上は修行にかける労力と成長率が割に合わないと判断し、一旦切り替える。
ここからは半デジタル、つまりまず筆で普通に描いた絵をスキャンしデータ化して、PC上で細かい直しや色彩調整をするやり方を練習する。
試しに数枚触って見た感じ、俺にはこのやり方が合っているようだった。
「綺咫ちゃん」もこの技法によるもので、この夏の集大成といえる作品になった。
「と言うよりもだな、こういうのは樫峰が詳しいのではないか?」
「それはそうなんですけどねー……」
今日、かおると香夜は桜先輩と会う予定らしい。共通の友人たる俺はまず居るべきだろうと思うが、なぜか2人に締め出されてしまった。曰く、今日は女子会だというので「女の子の日かー」と呟いたら袋叩きにされた。反省している。後悔はしていない。
そんなわけで、本日はかおる宅が完全に男子禁制である。
外に出て遊びたいなぁと考えていた俺は行き先を失ってしまい、なんとなく学校に来てしまった。
すると思ったより美術室に人が集まっており、思い思いに絵を描いていたので俺も混ぜてもらうことにした。
元々俺は、文も絵も筆が早い方ではあるが、普段おとなしい印象だった皆実先輩が存外ノリノリでセクシーポーズをとってくれるので、つい興が乗ってしまった。
デッサンしてキャラデザ作って下書きして、それを一旦家に帰りpcに取り込んで着色して、また学校に戻って仕上げるところまで半日で終わらせて、今に至る。
「浅川くんのえっち。かおるちゃんや香夜ちゃんにもセクハラして怒られたから、今日は一人なんでしょー」
「部長の目が怖いので変な言いがかりはよしてください。俺は芸術を追求しているだけです」
そろそろお暇しようかと思いつつ駄弁っていると、茂木先生が駆け込んで来る。
「おお、結構来ているじゃないか……あ!浅川も、ちょうど良いところに」
美術室を見回した先生が俺を見つけて何か紙を見せつけてくる。
「おめでとう、今FAXが届いた」
県の絵画コンクール、その結果が届いたようだった。
俺は……「FAXって現役なんだな」なんてどこか他人事のように考えていた。
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