魔導書庫のふたり
放っておくとすぐに荒れ放題になってしまう魔導書庫の整理をしているのはリーデルシュタイン王国の姫、シャルロットだった。
「おししょうさま」
「んー?」
ふと手を止めたシャルロットが肩越しに書庫の主――宮廷魔術師のローザを見ると、彼女は毛布に包まって古い書物のページをめくっていた。
「アル兄さまはご無事でしょうか?」
「さあ? どーですかねー。まあよっぽどのことがない限りは死にはしないと思いますけどねぇ」
「死ぬかもしれないような危険なところなのですか?」
「いやー、未帰還者続出の新規ダンジョンですからねー。死ぬときは死にますよー」
軽い口調で死ぬ死ぬと繰り返されてシャルロットは青ざめた。へなへなとその場にへたり込んでしまう。
「アル兄様……、そんな……」
「あー、でもエンズちゃん様もいますしー、アルベルトくんも相当なもんですからねぇ。そう簡単には死なないと思いますよ、たぶん」
「ほんとうですか、おししょうさま」
「じゃなきゃ私も送り出したりはしないですよー。彼らは
ローザにはエンズとアルベルトが窮地に陥るなど想像もできない。ダンジョン踏破など難なくこなして鼻歌混じりに帰ってくるだろうと思っている。
「無事にダンジョン
「おししょうさま?」
「あー、いえいえ。無事の帰りを祈って待ちましょう。いくらあのふたりでもそんなに早くは……おや?」
「どうかなさいました?」
短く早く、魔導書庫の扉がノックされた。
誰か来た。
この地下深くの魔導書庫を訪ねるものは少ない。
「アル兄さま?」
「ちょっと待って」
扉の方へ向かおうとするシャルロットをローザは制した。まだ帰ってくるような時間ではない。アルベルト陛下にしては早過ぎる。
「……これは、招かれざる客ってやつですかねー」
ローザが大きな眼鏡の奥で片目を細めた時、扉が押し開かれた。
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