それぞれの目的
大きな扉を押し開くと天井の高い広間のような場所に出た。
奥には地下に向かう階段が見える。
「そろそろ大詰めじゃな」
抜き身の直剣をぶら下げているエンズが口の端を歪めた。
あの後も私たちはエンズに助けられまくりでダンジョン探索を継続していた。部屋いっぱいのスライムのヌルヌル地獄はそれはもうひどい大惨事だった。とてもお見せできないようなウェッティな絵面になってしまった。その際に見つけた直剣は約束通りエンズが持つことになった。
道中、ズタボロになった冒険者や王国の騎士に何度か出くわし、その都度エンズは待機を命じていた。曰く「あとで救出するので余計な動きを取るな」と。なんでもこのダンジョン、脱出不能な状態になっているらしい。え、聞いてないんだけど?
「貴公らも、目的の
と言われたりもした。
「我に任せておけば悪いようにはせん」
すごい自信だ。このダンジョンを攻略できると確信してないとこんなことは言えない。ただ、私たちにも事情というものがある。
「それがですね……」
「なんじゃな?」
「まだ終わってないんです。私たち、
それを果たさなければ帰るに帰れないのだ。まあ、現状脱出不可能らしいので帰ることはできないみたいだけど。
「なんと強欲なことじゃな」
私の返事にエンズは呆れ顔で苦笑い。
「そういうわけなので、もうしばらく同行させてもらいたいんです……」
「我は構わぬよ」
「ありがとうございます!」
「フン。我は最下層を目指すゆえ、危険は増すのだぞ? 精々気を付けることじゃな」
そんなやりとりをして、今、私たちは最下層手前とおぼしき広間に辿り着いていた。会談まで伸びた真っ直ぐな石畳。その両側に等間隔にずらりと並んだ石像。
「動くぞ」
と、エンズが短く声を発するのとほぼ同時に、全部の石像がぐるりと私たちの方を向いた。
「ガーゴイル!」
「数が多すぎない!?」
「喋ってる暇があったら構えろぉ!」
「我が前に出る。斬りそこなった分だけ貴公らに任せるぞ。できるじゃろ?」
私とリズ、フィオナが各々構えている間に、エンズは散歩にでも出かけるような軽い足取りで進んでいく。ぶら下げた直剣の剣先がガリガリと石畳を削る。
ガーゴイルが一斉に飛び立った。背中の翼を広げ滞空し、奇声を発する。
エンズを強く警戒しているのは私の目にも明らかだった。
「来ぬのなら、こちらから行ってやろう」
エンズが石畳を蹴って跳躍した。
「Gyaaaa!?」
低い位置にいたガーゴイルの背中に着地。翼を斬り落とし、その背を蹴って次の個体に取り着いた。突っ込んでくる奴は撫でるような手の動きでいなして別の個体に正面衝突させる。宙を飛び回りながら一度も降りてこないエンズの代わりにガーゴイルの破片がバラバラと落下してくる。
「……いい加減見慣れてきたと思ったけどそんなことなかったね」
リズはボウガンを構え、そのままの姿勢であきれ果てていた。
「フィオナ、アレ、できる?」
「できるわけないだろぉ」
フィオナは私たちの前に出ながらぼやいた。
「あんなのはもう、英雄の領域だよ……」
「その英雄サマがなんだってこんなところにいるんだろうね?」
「そりゃ、ダンジョン踏破して皆を救おうってんだろ」
「まさしく英雄的な行動だね」
なんて言ってる間にもガーゴイルはザクザク斬り刻まれている。
斬りそこなった分は私たちに、とか言ってたのにそんな必要も無さそうだった。
「敵じゃなくて良かったよね」
「敵ならとっくに死んでるさぁ」
「あはは」
「一匹行ったぞ!!」
エンズの鋭い声。
完全に油断していた。
見上げるとほぼ直上にガーゴイルが一匹。石でできた顔が笑っていた。
垂直に降下してくる。速い。
狙いは――
「やばっ……」
――私だ。
防御魔法は間に合わない。回避も無理。リズの射撃は外れ、フィオナの剣も届かない。
ガーゴイルの鋭い爪が私を抉る――ことはなかった。
エンズが瞬間移動みたいな速度で割って入ると同時に真っ二つにしていたから。
「戦闘中にお喋りは感心できんぞ」
「ご、ごめんなさい」
「以後気を付けるのじゃな」
「は、はい」
「うむ」
かっこいぃー。あやうく惚れてしまうところだった。
エンズの鬼神の如き活躍で大量にいたガーゴイルは全てバラバラにされた。私たちは迷惑をかけただけで、ほとんど何もしていない。私たちが居ない方が足手まといがいなくて楽に違いない。
けれど、私たちにもやらなければならないことがある。ここで退くわけにはいかないんだ。
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