冒険者を救う剣
戦闘が、戦闘が多い……!!
骸骨のあとも戦闘、戦闘。また戦闘だった。
今、相手にしているのは
なんかこのダンジョン、アンデッド多すぎ。《
一体をフィオナが抑え込んでいる間にリズと私とでもう一体を倒す作戦だった。
だった、というのはその作戦が既に瓦解しているから。
「ひゃっ!」
リズは回避で精一杯。攻撃に移れないでいた。それはそう。
だから私の魔法で倒すしかないんだけど、それもうまくいかない。詠唱の途中でちょいちょい首無し騎士の攻撃がこちらに向くのだ。その度、詠唱を止められてイチから唱えなおしを強要させられる。
「まだか!? そろそろきついぞ!」
フィオナが大声を上げる。我慢強いあの子が弱音を吐くなんていよいよ厳しくなってきた。
一旦撤退するしかない。でも、どこへ?
僅かな逡巡。
ほんの少しの判断の遅れが致命傷になる。
今がまさにその瞬間だった。
首無し騎士の斬撃の間合いに私は入ってしまっていた。回避はーー間に合わない。被弾確定。厚手とはいっても布製品のローブでは威力の軽減は見込めない。死んだ、と思うと目に映る景色がやけにゆっくりに感じられた。
私を殺す一撃がはっきりと視認できた。
その剣を両手で白刃取りした黒髪の女の子の姿も、視認できた。
長い黒髪がダンジョンの影に溶けるようにたなびいていた。
「えっ?」
どこからともなく飛び込んできたその女の子は首無し騎士の剣を絡め取り、何をどうやったのか着地までの間に己の掌中にそれを収めていた。首無し騎士にもし顔があれば「えっえっ」という表情をしていたことだろう。
「フン。今一つじゃが、贅沢は言えんか」
女の子は年寄り臭い口調でぼやくとブンブンと剣を振った。大人の剣士でも振り回すのに難儀しそうな剣を華奢な片手で、容易く、軽々と、ふらつきもせずに。
「ふっ」
だらりと剣を提げた構えとも言えない姿勢から呼気ひとつで跳躍。次の瞬間には首無し騎士は縦に真っ二つになっていた。
「嘘だろ」
「なにそれ……」
フィオナとリズが絶句している。
「あと一体じゃな」
女の子は目を爛々とさせて残った首無し騎士に突っかけていき、いとも簡単に斬り倒した。なんなのこの子。
「フィオナ、見えた?」
「……」
私の質問にフィオナは顔をしかめて首を横に振った。
「貴公ら、大事無いか?」
黒髪の女の子は奪った剣を地面に突き立て、こちらに振り返った。真っ白な肌をしたどこか儚げで、それでいて鋭利な刃物じみた雰囲気の不思議な少女だった。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばぬ。たまたま通りすがっただけじゃ。貴公ら、腕に自信ありと見えるが、このダンジョンは少々厳しいのではないか? どうやら
「あ、えっと……」
治癒術師という単語に私たちの表情が一様に曇るのを見て、黒髪美少女は小さく息を吐いた。
「要らんことを言うたようじゃな。失礼した。では、我はこれで」
「ちょっと待ってください!」
そそくさと立ち去ろうとする彼女を私は呼び止めていた。
「ん? まだ用か?」
「こんなダンジョンを女の子ひとりで行動するのは危ないですよ」
「……連れがおったのじゃが、はぐれてしまっての」
ソロじゃないんだこの子。
連れの人も達人なんだろうか。
そんなことを考えつつ私は彼女に提案する。
「一緒に行きませんか? ひとりより安全だと思いますけど」
「……首無し騎士にてこずる者に我の安全を確保できるとも思えんがの」
からかい口調で指摘され、私は返す言葉もなかった。
「先程も言うたがこのダンジョン、貴公らだけでは手に余るのじゃろ? 帰った方がいいのではないか?」
その通りだ。この得体の知れない異常な強さの少女がいればダンジョン攻略が捗ると思ったのだ。フィオナとリズは黙って事の成り行きを見守ってくれている。私たちには撤退するという選択肢はない。
「帰るわけにはいかないんです。どうか、お力添えいただけませんか?」
私は頭を下げた。
女の子の困ったような気配。しばらくして、彼女はふう、と溜息をついた。
「ふむ。連れが見つかるまでなら付き合ってやらんでもない。アレとは最深部まで行けばいずれ出くわすであろうしな」
「じゃ、じゃあ!」
「我が名はエンズ。しばしの間、よろしく頼もう」
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