エンズの実力



「ちっ、なまくらめ」


 エンズと名乗った黒髪美少女が放った斬撃で、首無し騎士デュラハンから奪った剣は半ばからへし折れた。衝撃に耐えきれなかったんだろう。


 剣を折ったのは大きな岩蜥蜴ロックリザードだった。

 衝撃で目を回している岩蜥蜴にフィオナが近付いてトドメを刺した。


 エンズの加入によって、戦闘の効率は格段に上がっていた。

 骸骨スケルトンは粉々、食人鬼オーガは一刀両断、小鬼ゴブリン程度なら睨んだだけで逃げていく。私が魔法を唱える暇もないうちに終わってしまう。


 エンズは折れた剣をポイ捨てして、辺りを見回している。代わりの剣でも探しているんだろう。


「楽でいいね、リズ」


 私と同じく後衛(というか傍観者)になっていた野伏レンジャーのリズに声をかけた。


「あれ?」


 返事がない。横を見ると、そこにいたはずのリズがいない。

 どこにいったんだろう、と思っていると、


「た、助けてっ!」


 後ろの暗がりからリズの声が響いた。

 声の方に近付く。姿が見えた。手足を触手に絡め取られていた。いつのまにかローパーの接近を許してしまっていた。ローパーは長い触手状のツタを自在に操る植物型の魔物モンスターだ。投げ縄師ローパーの名前は伊達ではないようで、


「うわぁ……」


 リズは手足どころか全身を拘束されてなんだかやらしいことになってしまっていた。


「見てないで早く助けてよ!」

「あ、うん」


 私は詠唱を開始。炎系魔法でツタを焼き切って助けるのが良さそう。ちょっと熱いけどそこは我慢してね、リズ。


「まったく。油断しおってからに」


 足音もなく現れたエンズはやれやれとばかりに溜息をついた。その溜息を残して姿が掻き消える。次の瞬間、リズの目前に出現。速いなんてもんじゃない。瞬間移動かと思うほどの速度だ。


「動くでないぞ」

「ひゃいっ!」


 エンズがすっと腰を落とした。

 折れた剣を捨てて今は素手なのにどうするつもりだろう。


「はっ」


 鋭い呼気と共にエンズの両手が閃いた。手の形は動きが早すぎて見えないけど、おそらく手刀を叩き込んでいる。エンズが動きを止めると同時にリズは拘束から解放されて落下、尻から着地。ローパーは小間切れになって動かなくなった。


「常に周囲の警戒を怠らんことじゃな。気を抜くと死ぬぞ」

「す、すみません」

「次から気を付ければよい。……む?」

「どうかしました?」

「宝箱じゃな」

「あ、ほんとだ」


 ローパーの背後に小さな宝箱チェストがあった。

 私はちらりとエンズの顔を窺った。彼女は目を伏せて小さく頷く。開けていいらしい。


「リズ! その宝箱開けてみて!」

「シーラ、少しは私の心配してよね」

「ごめんごめん」

「もう少し静かにしろ。エンズに言われたばかりだろう」


 剣を提げたままフィオナが険しい顔で近づいてくるのを見て、エンズは薄く笑って頷いていた。


「生真面目な者がひとりでもおるのは良いな」

「すまない。緊張感の無い奴らで」

「構わぬ。我が一緒にる間は好きなようにしておればよい」

「そう甘やかされても困る」

「ふむ、そうか」

「ああ、そうだ」


 頷き合って、小さく笑っている。フィオナとエンズはなんだかすっかり仲良しだ。見た目は正反対だけど性格が近いんだろうか。ふたりとも武人って感じだし。


「開いたよ!」


 宝箱の鍵穴と格闘していたリズが弾んだ声をあげた。カチャリ、と音も聞こえる。


「流石リズ、仕事早いね! 何が入ってるの?」

「おおっ、これって……!」


 まさか!! なんと!!!

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