苦戦する冒険者一行
リーデルシュタイン王国の王都近郊にダンジョンが新規に発生したという噂は、王国を拠点にしている冒険者の間であっという間に広まった。
ダンジョンの発生それ自体は、世界的に見ればそんなに珍しいことではないけど、補給や休息に便利な大都市の近くというのはすごく稀だ。未攻略の、しかも補給や戦利品の売買等なにかと都合のいい立地のダンジョンなんてそうそうあるものじゃない。近隣の冒険者がこぞって集まるのも無理のない話だと思う。
私たちもそんな冒険者パーティのひとつだったり。
そして只今絶賛戦闘中。
「はあっ!」
フィオナの大剣が先頭の
砕かれた骨はすぐに集まって元通り。
さっきからこの繰り返し。
再生能力高すぎィ!
「おいシーラぁ! まだか!?」
フィオナが私の名前を呼んだ。
急かさないでよ。
……もうちょっとなんだから!
時間稼ぎも限界らしく、口調が荒い。
「返事くらいしろぉ!」
詠唱が途切れるから返事はできないってば。
そんなことも忘れるくらい切羽詰まっているのだ。現在3人パーティの私たちの編成は
実質フィオナひとりで骸骨の集団を抑え込んでいるような形だった。
長ったらしい詠唱がようやく完了。
私を護衛してくれていたリズに視線を向け、目を合わせて頷いた。
「フィオナ、準備できたよ! こっちに来て!!」
「わかった!」
「《
リズが叫ぶのと、フィオナが私たちの所に駆け付けるのと、私が範囲魔法を発動させるのがほぼ同時。
私を中心にして炎の渦が発生し外に向かって広がっていく。私たちを半包囲していた骸骨に向かって炎の壁がぶつかっていく。炎と風の複合魔法はスケルトンを文字通り消し炭にした。
「……ふうっ」
大剣の構えを解いたフィオナが、足元に転がった黒焦げの骨をパキッと踏み砕いた。鎧の下で激しく上下するデカい胸。荒れた呼吸を整えながら、
「低層階でコレはちぃっとキツくないかぁ?」
とぼやいた。
そうなのだ。
ここはまだ地下第五層。まだまだ序盤もいいところのはずで。
それなのにさっきからピンチの連続。勝てないわけじゃないけど、余裕があるわけでもない。
「《
今度はリズがぼやいた。
《死者浄化》ね。
「……」
「……」
「……」
全員が無言になり顔を見合わせた。
「ないものねだりはするだけ無駄よ」
「だね」
「うむ」
全員の沈黙を私が総括して、リズとフィオナが頷いた。
このダンジョンが発見されてまだ日は浅い。
たまたまリーデルシュタイン王国に立ち寄っていた私たちには最高のタイミングだった。
丁度、物入りでもあったし。
街で仕入れた情報によると近隣の名うての冒険者がこぞって攻略に乗り出しているとのことだったけど、私たちが準備を整えてダンジョンに潜るまでついぞ踏破したという話は聞こえてこなかった。
新規ダンジョンは早ければ三日かそこらで攻略されてしまうこともままある。王都近郊という好立地のダンジョンがそれ以上の時間をかけても攻略されない、というのはよほど高難易度のダンジョンだった、ということなんだろう。
私たちがダンジョン探索をはじめたのは発見後十数日が過ぎた頃だったけど、足を踏み入れた時点でもまだ未踏破。よくない噂――潜った冒険者が帰還しない――も聞こえてはいた。
攻略難度が高いダンジョンにはいくつかのパターンがある。
①出現する魔物が強い。フロアボスとかフロアガーディアン呼ばれる
②仕掛けがエグいパターン。罠とか謎解きがむやみやたらと難解なダンジョン。これはどうやら当てはまらないっぽい。今のところ難しいものには当たっていないから。ちょっとミミックが多すぎるような気はするけれど。
③何かしらの制限がかかるパターン。ダンジョンに入った時点でデバフをかけてくるようなダンジョン。鈍足化程度ならマシな方で魔法封印とかだと私は一般人以下のお荷物になってしまう。
今のところの傾向としては、このダンジョンは「①魔物が強いパターン」っぽい。
「でも」
そんな理由だけで、
「どしたのシーラ、難しい顔して」
「リズはさ、このダンジョンがまだ攻略されてないこと、どう思う?」
「えー?」
野伏の少女は少し考えて、
「ラッキー!ついてる! って思うかなあ」
「
「だって、あたしたちが踏破しちゃうかもしれないじゃない」
「あー、うん」
すごい楽天的だ。私とは思考の方向性が違う。既にまあまあいっぱいいっぱいなのに踏破できると思えるのがすごい。
「フィオナはどう?」
「
我がパーティの前衛担当は淡々とした態度で呟いた。
「精鋭部隊かあ」
私たちは目を合わせた。なるべく鉢合わせしたくない相手だ。
「ここで立ち止まっていても仕方あるまい。行くぞ」
気を取り直して私たちはダンジョン攻略を再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます