好立地、未踏派、そして
――ダンジョン。
世界の至る所にある日突然発生する不可思議な空間を指す言葉だ。
それは洞窟だったり地下迷宮だったり、果ては塔だったりすることさえあり、様式は千差万別。同じダンジョンは一つとしてないと言われている。
人類が歴史を紡ぎはじめた頃には既に暮らしの傍らに存在していた。
にもかかわらず今なお、ダンジョンの発生原因は特定されていない。
神の恵みか悪魔の悪戯か。いずれにせよ、ダンジョンある所に冒険者が集まるのは間違いない。
我がリーデルシュタイン王国にもダンジョンはいくつか存在しているんだけど、古いモノばかりでどのダンジョンもそれほど賑わってはいない。はっきり言えば結構過疎っている。そんな我が国のダンジョン事情に大きな変化が起きた。
王都近郊に、新しいダンジョンが発生しました!
やった。これは本当に嬉しい。望外の幸運と言っていい。王都から徒歩で半日もかからない距離に発生した超好立地。そんな新規ダンジョンの攻略に乗り出した冒険者たちが大挙して王都に押し寄せてきている。ダンジョン内で入手できるレアアイテムはもとより初踏破の
かくいう我が国も精鋭の近衛騎士を中心に何組かのパーティを送り込んだりしている。自国の王都近郊のダンジョンの管理権限は自分のところで保持したいのが人情というものだ。
ダンジョンを攻略するには準備が必要だ。拠点となる町での宿泊施設。武器・防具の購入や手入れ。消耗品の購入。怪我や状態異常の治療。それらすべてを賄うために冒険者の皆さんは城下に大量の
ここのところ厄介ごとばかりが続いていた僕としては大変喜ばしい。たまにはこういう良い事があってもいいだろう。いいに決まっている。というか良い事ばっかりあればいいのに。
「そういう考え方をしとると手痛いしっぺ返しを食らうのじゃ」
僕の剣であるエンズが「馬鹿め」と言わんばかりの顔で小言を口にした。
ご機嫌な僕が「そうだね! 気を付けるよ!」と笑顔で返事するのを見て、聖魔の神剣は口をへの字にひん曲げて深々と溜息をついた。
ダンジョン発生から十日ほど経過して、エンズの苦言が現実のものとなった。
「
「たわけ。我のせいにするでないわ」
「冗談だよ」
事態は冗談で済むような状況ではない。
エンズも渋い顔で腕組みをしていた。
「派遣した近衛騎士をはじめダンジョンから戻らぬ冒険者が後を絶たぬ、と。どうするつもりじゃ、我が主よ」
「うーん」
ダンジョン探索は危険と隣合わせ。生きるか死ぬかの瀬戸際まで行くような挑戦だ。死人が出てもおかしくない。踏破されていない新規ダンジョンなら尚更だ。
だけど。
発生したてのダンジョンは未完成である場合が多く、攻略難度もそれほど高くないのが一般的だ。少なくとも未帰還の冒険者が続出するような事態は想定されない。
「一般論では語れぬレベルのダンジョンだったというわけじゃな」
「だよねぇ」
「王都近郊に高難度ダンジョンか。我が主は
「困ったもんだね」
好立地、未踏派まではよかったんだけど、攻略難度が高すぎるのは困りものだ。そこは「並み」でよかったのに。
「……それで、如何するつもりじゃ?」
いかがする、と言われてもなあ。
となると最善手は――
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