タッカー&ノリス(1)
俺――なんでも屋のタッカーは依頼内容について一通り説明を聞かされて、コレはマズいな、と感じていた。無論顔には出さないが、内心どうしたものかと思っている。
依頼人の代理と名乗る
フード付きのマントはまあいい。冒険者によくある格好だと言えばそうだろう。
だが
顔を覆う真っ白な仮面は、目と口の部分が喜怒哀楽の「喜」の表情でくり抜かれていた。魔法的な処理でもされているらしく、くり抜かれた仮面の向こうの目や口を視認することはできなかった。
「やってくれるかね」
仮面のそいつは底冷えのする口調で念押ししてきた。
俺はふう、と息を吐いた。隣に座っている相棒のノリスと顔を見合わせた。声が震えないように注意しつつ、
「くれるかねもなにも、なあ?」
「なあ?」
断れるような状況ではなかった。
相棒の顔の向こう――部屋の
依頼内容は請け負うのを躊躇するレベルのクソだが、ここまで話を聞いて辞退したら俺たちも死体の仲間入りが確定する。そっちの方がもっとクソだ。
「やろう。引き受けよう」
そう答えるしかないわけだ。選択肢はあるように見えて、実は無い。
「そう言ってくれると思っていた」
仮面が満足げに頷いた。
寒々しい声にも魔法がかけられているのか、性別さえわからない。
もっとも性別以前に人間であるかも怪しくなっているわけだが。
「報酬は前金で三分の一を渡そう。残りは成功報酬だ。前金の持ち逃げは」
「しねえよ。俺たちもそこまで馬鹿じゃねえ」
前金をちょろまかすよりも依頼内容を知った状態で逃げることの方がリスキーだ。確実に追手がかかり、殺される。俺たちが生き延びるには依頼を達成するしかない。
「ではこれを」
前金が支払われた。小さな布袋がふたつ。中身は金貨三枚。ひとり金貨三枚だ。ふたりで六枚。何年かダラダラ暮らせるくらいの金額だった。
依頼に成功すれば、更に倍の金貨六枚が支払われる。
目が眩むような大金。
クソみたいな仕事を辞めて、人生をリセットすることも視野に入れられる。そんな金額だ。
奇妙な笑い声が響く。
相棒が笑っているのかと思った。
違った。
笑っているのは俺も同じだった。
ふたりで笑っていたのだ。
「それでは改めて依頼内容を伝えておく」
仮面も笑っているようだった。いや、仮面が笑みの形をしているだけか。
「リーデルシュタイン王国の現国王アルベルトの抹殺、だ」
そう。
俺と相棒は王殺しの依頼を引き受けたのだった。
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