呪イヲ解ク魔法
《
でも、《超解析》でも分からないことがある。
彼女はいったいどこでこんな呪いをかけられたのか。
それも六つも累積しているなんて。
いくらミランダ嬢が「お転婆」と揶揄されるほどアクティブな女性だとはいっても、累積するほどをかける隙があるものか? 仮にも彼女は貴族令嬢なのだ。お付きの者や護衛が常に傍にいるはずだ。呪いをかけられるような隙を晒すタイミングなどそうそうあるはずが――
……いや待て。
――ここまで考えて、はたと気付いた。
「そうか」
「アルス様?」
ここか。
この秘密基地か。
僕は汎用スキル《
すぐに妙な魔力の痕跡に気付いた。
ほらあった。
予想は正しかった。
「ミランダ様はここで少し待っていてください」
そう言い置いて僕は洞穴を飛び出した。
魔力の痕跡は洞穴を囲むようにしつつも巧妙に隠された魔法陣のそれだった。六回も呪いをかけたせいで魔力切れを起こしているのか今は効果を失っている。おかげで〈王の器〉がなければ見逃していた。発見されにくくするところまで見越して仕掛けたのだとしたら相当頭の切れる術師の仕業だ。
とはいえ、
「見つけてしまえば対処はできる」
僕は魔法陣を《
誰がやったかの詮索は後回しでいい。
今は優先すべきことは別にある。
全知の賢人で扱える魔法の中でも屈指の破壊性能を誇るものを選択する。
「《
指定対象物のみに作用する、痕跡さえ残さず存在を掻き消してしまう消滅魔法だ。
やるべきことはあとひとつ。
僕が洞穴の中に戻ると、ミランダ嬢はおとなしく待っていてくれた。
ひとりがけの質の良さそうなソファに腰掛けていた彼女は僕の姿を認めると立ち上がろうとした。それを制して、僕は非礼を詫びた。
「急に席を外して申し訳ありませんでした」
「いいえ。御用はお済みでして?」
「あとひとつだけ」
僕はミランダ嬢へと手を翳す。
「あの、これは?」
「どうか動かないで、そもままでいてください。これからミランダ様にかけられた呪いを解きます」
「えっ……、私にかけられた呪い……?」
全知の賢人はあらゆる
「落ち着いて、気を楽にしていてくださいね」
掌に白い光を纏った魔法陣を生成し、生成し、更に更に生成する。合計六つの魔法陣が重なり、輝きが増した。
「《
一気に発動させた《解呪》×6が効果を発揮する。
パキパキと、ガラスを踏み砕くような乾音が連続した。
呪いが根こそぎ粉砕されていくのが僕の視界にはよく視える。ミランダ嬢のステータスの異常が消えていく。最後まで残っていた「呪い」の表示も無事に消えた。
「これでもう、誰かを呪ってしまうことはないですよ」
僕は今回の事の顛末をかいつまんで説明した。呪いをかける呪いに侵されていたことと、それは既に解呪したことを、ざっくりと。
彼女に呪いをかけた魔法陣も完全に《崩壊》させてあるから、大丈夫のはずだ。
「え……?」
「安心してデビュタントもできますよ」
アップルトン伯爵からはミランダ嬢の呪いのことを第一に頼まれていたけど、彼女のデビュタントが近いことも聞かされていた。一人娘ということもあってか、とても大切にしているのが分かって、僕は嬉しくもあり羨ましくもあった。
笑いかける僕に、ミランダ嬢は呆けたような顔をしていた。
「――呪いを解いてくださってありがとうございます」
「いえいえ」
「あの……、アルス様は一体何者ですの?」
その質問には答えられない。
だから代わりに僕はいつも通りの嘘を吐く。
「貧乏男爵家の三男坊ですよ」
申し訳ない気持ちはあるけど、国王です、と正直に答えてしまうとそれはそれで迷惑をかけてしまいそうだし、変に恐縮されたくもない。
「そうですか……」
納得はしてないけど詮索はしないでいてくれるっぽい。深入りしない方がいいと思ったか、それともこちらを気遣ってくれたのか。いずれにせよ有難い判断だった。
「浮かない顔をしていますが、呪いの他にまだ気になることが?」
「……」
「僕で良ければ話を聞くくらいはできますよ」
「先程アルス様が仰っていた私のデビュタントなのですけれど、ペアグラント侯爵夫人の舞踏会なのです。元々エスコートしていただく予定だった殿方がいたのですが、呪いのことで婚約破棄されていますの……。ご存知の通り、その後も多くの殿方を呪ってしまって」
エスコートしてくれる相手がいない、ということか。
うかない顔なのも無理ない話だ。
「わかりました。そういうことなら僕に任せてください」
「アルス様に?」
「舞踏会の当日は、僕がお迎えに上がります――」
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