無自覚に強まる呪い
今日は御父様の
着飾って応接間で待っているのがとても居心地悪いです。手を尽くしてくださる御父様には申し訳ありませんけれど、全く気乗りしないのです。
「ふぅ……」
溜息がひとつこぼれました。
「ヴァイス様に呪いをかけておいて、当の私はのほほんと次のお相手探しだなんて」
なんと薄情なことでしょうか。
婚約破棄されたとはいえ、ヴァイス様のことはずっと好ましく思っていました。ヴァイス様とは物心ついた頃の付き合いで、気心の知れた仲でした。私の至らないところは全てバレておりましたし、だからこそわざわざ隠すようなこともしませんでした。何よりヴァイス様はそんな私を受け入れてくださる度量の大きな方でした。
「それに」
今日初めて会うような見たこともない殿方と一体どんな話をすれば良いのか皆目見当もつきません。
ほう、とふたつめの溜息が漏れました。
「第一、今度のお相手まで呪ってしまったら」
私はどうなってしまうのでしょうか。
いよいよ逮捕されてお城の地下牢に繋がれて拷問をされてしまうかもしれません。 考えただけで身の毛がよだちます。拷問は嫌です。絶対に嫌。
みっつめの溜息をついた時、応接間のドアが開きました。
御父様と一緒に、ひとりの紳士がお見えになりました。見上げんばかりの体躯。ごつごつとした輪郭に太い眉。貴族というよりは山賊といった雰囲気の彼は豪快な笑顔と共に、しかし貴族らしく洗練された所作で挨拶をしてくださいました。
「はじめましてミランダ嬢。私の名はゴルドフ・ポテルマイヤーと申します」
「ごきげんよう、ポテルマイヤー卿。ミランダ・アップルトンです。……あの、大丈夫ですか?」
「はっはっは、噂の呪いの件ですか」
見た目から想像した通りの、豪快な笑いが応接間に響きました。
「これが何かおわかりになりますかな?」
ポテルマイヤー卿は太い指に嵌った
「
なんともあけっぴろげな方でしょう。笑い方も態度も豪快というか、乱暴というか。ヴァイス様とは大違いですね。貴族の殿方にもこんな人がいるですね、と私自身の
ピシリ。
と不穏な音が響きました。
ポテルマイヤー卿の指輪に小さな亀裂が入ったのです。
「うん?」
ポテルマイヤー卿と、私と御父様の視線が一斉に指輪に集中した次の瞬間、
ぱきぃん!
綺麗な音を響かせて、抗呪の指輪は砕け散りました。粉々になった破片が絨毯の上にばらばらと散らばり、指輪はもう跡形もありませんでした。
「あ、あの」
ちらりとポテルマイヤー卿を見れば、豪快な笑顔はすっかりひきつってしまっていて、脂汗がダラダラと頬を伝っておりました。
「ふ、ふふふ。ご心配なくミランダ嬢。私の鍛え上げられた肉体をもってすれば呪いのひとつやふたがふっ」
そんな勇ましい台詞とカッコいいポーズを決める途中でポテルマイヤー卿は泡を吹いて倒れてしまったのでした。突然の出来事に唖然としている間にもぴくぴくと痙攣しはじめます。
「おお、ミランダ」
御父様が力無く私の名前を呼びます。
指輪が砕けたのもポテルマイヤー卿が倒れたのも全部私が無自覚に発動させた呪いの結果のようです。
「御父様はご無事ですの?」
「うむ。だが」
御父様の視線の先、ポテルマイヤー卿は完全に意識を失っていました。
はじめて呪いをかけた時、ヴァイス様はここまで酷いことにはなっていませんでした。
私の呪いの力が強まっている、ということなのでしょうか……。
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