第八話 呪いのお転婆令嬢の婚約破棄
ミランダ・アップルトンの独白
今朝方、屋敷に届けられた一通の手紙には「ミランダ・アップルトン子爵令嬢との婚約破棄」という趣旨が見間違えようがないくらいはっきりと記載されていました。
ミランダ・アップルトン。
私のことです。
アップルトン子爵家の一人娘。両親の間に他に子が生まれなかったことや母が早逝したことが影響してでしょうか、御父様は私を大いに甘やかしてくれました。
そのせいもあって――と言うとすごくズルい気がしますけれど――私は見事なお転婆令嬢として育ちました。礼儀作法もおぼつかないし、ダンスや音楽の才能もなく、趣味といえば屋敷の裏の林に作った秘密基地の修繕と拡張という、とても人様には言えないようなもの。
私が奔放に育つよりもずっと以前、幼い頃に婚約していたお相手から伝えられた婚約破棄。婚約のお相手はヴァイス・フェルナンド伯爵令息。当家よりも格上の、それも侯爵家に連なる名家の次男であられる御方。そんなヴァイス様との婚約を取り交わすのに御父様がどれほど苦労なさったかは私にも想像できます。
「ですのに婚約破棄されてしまうなんて。あはは。ぜんぜん笑えませんわー……」
空虚な笑いが部屋に響きました。他に誰もいませんのでセーフです。
笑えない理由のひとつには、私の
舞踏会つまり、ダンスのお相手が必須。
婚約者のヴァイス様とご一緒する予定でしたのに、婚約破棄さてしまい、途方にくれる私なのです。
「まさか欠席するわけにもまいりませんし」
御父様が是非にと取り付けてきた舞踏会なのですから、出席する以外の選択肢はございません。
私は溜息混じりにテーブルの上に広げられた手紙を手に取りました。
何度手紙を読み直してみても、同じことが書いてあります。当たり前ですわね。
婚約破棄の原因は私。
私がヴァイス様に呪いをかけてしまった――らしいのです。
らしい、というのは全く身に覚えがないから。
身に覚えはなくとも、実際にヴァイス様は衰弱の呪いに冒されていて、体調を崩される直前に私のもとを訪ねてくださっていて、状況証拠的に私が呪いをかけていた、ということのようでした。無意識のうちに呪いをかけた? 人並以下の魔力しか持たないこの私が?
濡れ衣です、と声を上げたかったのですけれど、否定する材料を私は持ち合わせておりませんでした。
呪いのお転婆令嬢。
かくして私に付けられた、その不名誉極まりない二つ名はあっという間に貴族の皆様方の間に広まってしまったのでした。
令嬢としてはおよそ事故物件といって差し支えない私に、新たなお見合いの話を取り付けてくる御父様は本当に凄い交渉力をお持ちだと思います。商会を一代で大店にした辣腕を愛娘――私のことです――のために全力で振るっているのでしょうね、きっと。
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