第25話 戦いの後で


「しんどー、もう立てねえ。というか動けねえ」

 力を使い果たしているのだろう。

「あなたは。戦いの後はいつも、そうですね。アサト……本当にありがとう。あなたを選んでよかった」

「ああー」

 雑な返事だ。会話すら大儀な状態なのだ。無理もない。今までの越境者と比べてはるかに強い敵。そして、自分の能力を限界以上に振り絞ったのだ。

「もう。本当に仕方ない人ですね。そこで寝てたら風邪を引きますよ」


 私は自分の服の膝の辺りを叩いて払い、アサトの元に行く。そして彼の頭を起こして自分の膝の上に乗せる。乗せた膝の上で、こちらを向かずにアサトが言った。

「生乾きじゃん」

「凍った地面よりましですよ。私の体温もあるんだから」

「……ああ」

 安心したようにアサトが薄く目を閉じた。程なくして私の膝のあたりから穏やかな寝息が聞こえてくる。もう暫くこうしているのも悪くないな、と何故か私は思ったのだ。



「おーい、アサトー。音が止んだみたいだから来てみたぞー。終わったかー。寒っ」

 ショータローさんが大声を出しながら現れて、私たちを見て。

 そして硬直する。まるでメデューサに睨まれたみたいに。

「ってええええええ、膝まくら?お前ら、もう既にそういう関係……」

「ああああああ。全然!!全然違います!!」

 突然立ち上がったので膝にのせていたアサトの頭を落としてしまう。

「痛って!!つつつ」

「あ、アサト、目を覚ましたんですね」

「当たり前だろ」

「ご、ごめんなさい」

 体を起こしながらアサトがショータローさんに言う。

「せっかく気持ちよく寝てたのによー」

「はは、わりわり。ま、見せつけられた感すげーけど、2人が仲直りしたようでよかったよ」

「……別に気まずくなってねーよ」

「あれだけヒカリちゃんに心配かけといてか?」

 アサトはこちらを向き直って言う。

「……悪かったよ」

「いいんです、私も、信頼しきれなくてすいませんでした」


 ショータローさんがうんうん、と頷いている。本当に根がいい人なんだろう。ダメ人間だけど。

「で、ところでさ。めちゃくちゃ寒いんだけど。なにこれ」

 アサトがさらっと答える。

「ああ。俺たちの力だ」

「はっ?まじで?」

「いや、本当に驚きです。ショータローさんは、魔力は大したことなかったっぽいんですが、詠唱の正確さと言いますか。精霊をその気にするのが上手いと言いますか、精霊がショータローさんの実力を超えて踊ったのでしょうね」

「いや、おれあの怪文書、噛んだり飛ばしたりしてたけど」

「え」

 ……だとしたら立てられる仮説は。

「もしかして間違えることによって正規の魔法より逆に大きな力が出たってことですか」

 魔法の世界はもしかして、私が思っているよりずっと浅いものなのだろうか……。それとも、この二人が規格外なだけなのだろうか。

「お前すげーな」

「ああ。ストゼロのおかげだよ。サンキューな、アサト。ぶっ倒れてたけど、一時的に疲労を忘れることができたんだ」

「飲んだんですねアレ……」

「ショータロー。ありがとな」

「おお。いつでも言えよ」

 そう言って二人は固く握手する。

 まぶしい友情に朝日が差し込んだのだった。

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