第21話 別の旅人


「じゃ、俺は公園から出るよ、連絡よろしくな」

「ああ」

「よろしくお願いします」



「あれ?」

 ショータローさんを見送って数分。気配を感じて辺りを見回すといつの間にか数人の影が見える。


「人が、何人か来たな」

「ええ」

 その内の一人がのしのしと大股でこちらに来る。

「ぼーっと突っ立ってんならどいてろよ、ヒョロガリが」

「ちょっ。何するんですか」

 アサトが後ろから近づいてきた男に肩を押される。私は抗議の声を上げるが、アサトは特に反撃するでもなく冷静だ。筋骨隆々の半裸長身の男性を見上げながら聞く。

「旅人か」

「ああ!そうだ!お前のようなヒョロガリとは違う。俺らは英雄級の旅人。ここに現れるという越境者を狩りに来た」

「そういうことよ。そこの優等生っぽい女の通訳者」

 いつの間にか私たちの目の前に来ていた茶髪の女性が言い放つ。美人なのは間違いないのだが、手入れが行き届いていない長い髪にねちっこそうな品のない顔。絶対性格合わない。そして何となく場末の香りがするのはなぜだろう。

「私たちもここに現れる越境者を倒しにきました」

「二人で何ができるっていうのよ」

 ははははは、と周りで私たちを嘲笑う声があがる。

「くっ……。でも、この人数の旅人達と通訳者を集めていただいたのは感謝します。あなたが集めたのでしょう」

 いくつかの旅人と通訳者がチームを組んでいるなんて初めて聞いたが、とにかく今回は助かった。

「あの中に通訳者は一人もいないわ」

「えっ」

「この場の通訳者は私とあなただけ」

「ということは、一人で何人ものパートナーを?」

「ええ。そういうこと」

「……この世界の言葉でいうヤリ〇〇的な感じでしょうか」

「何というか、お前からそういう言葉を聞きたくなかったと何故か思ったわ」

 アサトが呟く。

「そこの通訳者は優等生のくせに口が悪いわね。ま、そういうわけで今回の越境者を倒すのは私たち。あなたは大人しくそこで見ていなさい」


 先程アサトを押した半裸の男が身丈を越えた槍のようなものを掲げて言う。

「ここが今日の狩場だ!!誰があいつを倒すか競争だ!!」

 うおおおおおお、と雄たけびを上げて盛り上がる彼ら。全員半裸のマッチョ男だというのに気づいて私は思わず悲鳴が出る。

「ひっ。なんですかこの人たち」

「漫画とかでよく見るノリだな、マジでいるんだ、こういうやつら」

 アサトは呆れている。

「というか大量の半裸男に女一人。何か輪〇モノのAVみたいに見えてきた……」

「私こそあなたからそんな言葉を聞きたくなかった……」



 檄を飛ばしたリーダーっぽいマッチョ男にアサトが聞く。

「今日ここに何が来るか知ってるのか?」

「いや?具体的に何が来るかなんて知るか。ただ、大物が来るんだろ?」

「お、おう。何かフラグ臭がすごいけど、いいや。お前らに譲るよ。俺たちは大人しく見てるから」

 宣言したアサトに耳打ちする。

「いいんですか?本当に」

「まずは様子見だ。敵がどれくらい速いのか、どれくらい強いのかを奴らで確かめよう。あいつらがドラゴンを倒せればそれはそれで問題ない」

「わかりました」

「じゃ、俺らは隅に避けるか」

 2人で隅にあるベンチに腰をかける。



「それにしてもこんな通訳者がいるなんて」

「なるほどなーと思ったよ。強い旅人一人とパートナーになるのと、こうやって沢山人数を集めるの。どっちが強いんだろうな」

「数が多いのは有利ですよね」

「まあ少なくとも俺らよりは強いだろう。で、1人で大量の人数抱え込むから脳筋だけ集めてるんだろうな。色々と単純だろうし」

「マネジメントも意外とよくできてるってことですか、でも何かルール違反感というか、うーんモヤモヤしますね」

「まあ勝ってくれたら文句ないよ俺は」

 

 アサトはもう寛ぎの体勢になっており、戦う気が0に見える。いつ居眠りを始めてもおかしくないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る