第20話 作戦会議


 そしてその日が来た。

 今回も出現時間は早朝。

 公園の広場で私は待つ。あくびをしながら、散歩でもしているような足取りでアサトが現れる。私は目をみはる。だって、確かに約束したとはいえ、本当に来るだなんて。

「来て、くれたんですね」

「もちろん来るだろ。まあ、めちゃくちゃ嫌だったけどな」

「勝ちましょう」

「ああ」

「アサト、これを」

 私は、ポケットからペンダントを渡した。銀色だが、薄ピンクに輝くペンダント。

 ここ数日、私の祈りの力を捧げ続けたものだ。

「これは?」

「守りのペンダントです。ドラゴンの攻撃からあなたを守ってくれるでしょう。ただ、これは回数制限がある。具体的な回数はわかりませんが、力を無くした時にこのペンダントは壊れます」

「ありがとう」

 アサトは迷わず首からペンダントをかけた。


「俺なりに作戦を考えた。話すぞ」

「ええ!!」

「早速だが、今回は助っ人を呼んだ」

 近づいてくる人影。こ、この人は。

「げ!?ショータローさん」

「こいつも趣味級旅人の素質があんだろ?なら、猫の手になる」

「たしかにそうですが、通訳者とパートナーシップを結んでいません。一般人ですよ。違反では?」

「だったら、先生とやらに確認してくれよ」

 アサトの言葉に私は先生に電話をする。コール一回目で先生は出た。私が何か言う前に彼女は言い放つ。

「特別に許可した」

「ほ、本気ですか?」

「ええ。まあ今回は事が事だから。強力な越境者がこの段階で来るのは予想外だったからね。本人の話じゃ魔力タンクと呪文の補助に使うだけってことだったし」

「どういうことでしょうか?」

「まあ作戦は勇者君に聞いてくれ。あいつめ、最初は私を狩りだそうとしやがった」

「え」

「一人で二人の通訳者とパートナーになれるか?ってね。断ったわけだが、まあ話の流れで次のお願いは断れなかったわけだ」

「自分が出たくないからなんじゃ……」

「ははは。じゃ、検討を祈るよ」

 電話が切れた。


「ルール違反ではない だろ?」

「え、ええ」

「さて。というわけでこいつは助っ人として呼んだ。で、ショータロー。お前はこれだ」

 アサトはショータローさんにクリアファイルに入ったA4の紙数枚を渡す。いや、このムーブ、マジでテスト前のそれ……。

 ショータローさんは貰った紙の内容を朗読する。

「えーと、我は氷の精霊を導きし……何この中二病怪文書」

 もちろん事情を全く知らないショータローさんから引き気味の質問が飛ぶ。

 それに対し言い放つアサト。

「ああ。お前はぶっ倒れるまでこれを朗読してくれ」

「ブラック会社の新人研修!?俺、まだ就活もしたことないのに」

「マジで気合い入れて読めよ。このデカい公園凍らせることを全力で想像しろ。で、多分読んでるうちに倒れそうになったらこれを飲んでまた詠唱だ」

 ガラス瓶に入った青色の水薬を何本かショータローさんに渡す。

「なにこれ、ポーション的なやつ?」

「ああ。そうだ。さすが、大いなる才能を持つ男。呑み込みが早いな」

「いや、趣味級はめちゃくちゃランクとしては下ですが……」

「仕事でやってるやつより、趣味のやつの方が大きな力を発揮することはある」

「この分野においては考えにくいですが……」

 私たちの意見は平行線のまま交わらない。


「ちなみにそれを飲みきったらこれを飲め。魔力切れをごまかせる」

 アサトがショータローさんに手渡したのは銀色の缶、というか酒!?

 ストゼロって書いてあるけど……。

「強い酒は魔力切れを一時的に緩和する力がある」

「マジですか!?」

「現実を忘れられる」

「いや、それ違う意味では!?」


「まあ。そういうことだ。こいつに詠唱をしてもらう。魔法に使う魔力は俺たち3人から集める」

「大規模……魔法?」

 大戦時などに使用していたらしい、魔法使いが何人かのユニットで繰り出す魔法のことだ。もちろん一人の放つ魔法より強い。

「ああ。そうだ。俺は動物園で爬虫類が寒さに弱いことを知った、だからこの場ごと凍らせれば敵にダメージを与えられると考えたんだ」

「こんな魔法。私が渡した教本には載っていないですがどこで」

「図書室のデータベースでな。ショータローには公園の外でずっと呪文を詠唱してもらう。そして起動。俺のこの言葉で魔法を発動させる」

 

 アサトは腕組みして言った。

「やるぜ。2人とも。この公園を氷河期にしてやる」

「そ、そこまでは無理では? 3人だし……。でも切り札にはなりそうですね。動きを鈍らせた後ドラゴンキラーを使うと」

 頷くアサト。

「よし。じゃあ配置についてくれ。ショータローはすぐ公園から出て、外周の目立たないところにいてくれ。始めてもらうときはラインでスタンプ送るから」

「か、軽いですね……スタートの合図それですか」

「おお!!!」

 私の呆れの声をショータローさんの元気な返事がかき消したのだった。どうにもこの人がいるとシリアスにならないのだ。この街の危機だというのに。

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