第18話 まだ破滅が訪れる前の夕方


 それからの数日、アサトから連絡は来なかった。

 彼は準備をしているのだろうか。私にも役割がある。そのため、特に連絡はしなかった。

 夕方、空腹を感じて食事をとりに出かけることにする。もうあと二日ほどでその日が訪れるというのに、お腹は空くし、商店街では人が行き来している。なんだか不思議な気分だった。


 大型の越境者が現れる前日は市民を非難させ、立ち入り禁止区域にするだとかそういった対応の例も聞いたが、今の私にそんな力や人脈があるわけもなく。

 どうしようもなく街は平和だった。根を詰めすぎても仕方がない。日常するときは日常を味わうのが大切なのだ。そう自分に言い聞かせる。

 揚げ物の匂いに惹かれて肉屋さんでコロッケを買う。かぶりつくと熱々の肉汁が迸る。

「……おいしい」

「食べ歩きかい?俺も一緒にいいかい?」

 軽い口調に振り向くと、やはりというか見慣れた金髪。ショータローさんだった。

「商店街でいつもエンカウントしますね……」

「いや……、人を雑魚キャラみたいに言うなよ」

「レベル1……」

「学年をレベルに直すな!!」



「ところで、アサトに最近会ってないのですがどうですか?会ってますか?」

 やはり気になってしまい、アサトの動向を聞く。

「ああ。一昨日うちきて朝まで飲んでたよ。昨日はスマホずっといじってた。昨日なんかマジで俺が敷いた布団から動かなくてビビったわ」

「え?」

 ショータローさんの何気ない一言に愕然としてしまう。

「そ、そんな。え?だってアサトも今回の件の重要さは理解しているはず……え?なんで」

 私は頭が混乱してしまう。ショータローさんは一瞬失敗したという顔をした後フォローを入れる。

「あ。あいつになんか頼んでたのね。ヒカリちゃん。大丈夫、安心して。いつもこのパターンだから。しばらく無気力になってクズパワーをためてるから。いざという時は輝くから、あいつ」

「何ふざけてるんですか!!重要なことなんですよ!!大体クズパワーってなんですか。いつもいつもそうやって!!連絡すらよこさないし!!」

「わ、悪かったって……はは、ちょっと俺アサトにガツンと言ってくるわ、じゃ、また!」

 ショータローさんはバツが悪そうに言った後、そそくさとその場を去っていった。



 アサトがこの数日間、ドラゴンの対策を行っていないことは明白だ。

「追いかけよう」

 しょーたろーさんを追いかけて、アサトに会うのだ。

 でも。

 会って何を言えばいいのか。到底倒せるとは思えない強大な敵。死地へ向かうのと同義だろう。恐怖、葛藤。アサトが抱えている思いは計り知れない。


 答えは出せないまま、私はしょーたろーさんの跡をつけたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る