第17話 道具屋を漁る勇者(というテイ)
「あ、あの!」
それを発見して、思わずアサトに声をかけた。
いくつかある売り物の武器やら魔道具やらがはいったガラスケース。その中に1つだけ扉が開いているものがあった。それどころか開いていることが明らかにわかるように、ケースの上に外された鍵が置いてあったりで、これはおそらく先生わざとだろうなというのがわかる。
「あの、これ」
「ショーケースの鍵。これだけあからさまに外れてるな。……これは」
ショーケースの中に禍々しいオーラを称えた武器が収納されている。
「おそらく手出しはできないが、あいつなりの協力といったところか」
笑顔こそ見せないものの、アサトは少し嬉しそうだ。私も少し希望が見えたような気がする。
こん棒、剣、鋸。この辺のものを悪魔合体させたような武器。私たちに微かな光を与えたそれは、縦横無尽に大小さまざまな棘のついた凶悪な見た目をしていた。
「さっきの話と一致するな。この剣はドラゴンの鱗を剥がすためでもあり、その後に攻撃するものでもある。だから竜殺しの剣は棘が付いたような構造になっている……。ああ」
少し考えた後納得したような声を出すアサト。
「なにかヒントが?」
「いや、ちょっとショータロー誘って動物園に行ってくる」
「は?えええええええええ」
「あと釣りかな、釣り」
「つ、釣り?」
「じゃあ!ドラゴンについて情報がわかったら教えてくれよ」
急に明るい声になったアサトは、そう言って店を飛び出していった。私にはわけがわからない。私は一人残されて呆然と立ち尽くす。
「な、なんなの」
「それでいい」
「ひっ!!あ、先生」
ヌッという擬音がまさしく当てはまる。どこから出てきたのだろう。突然の声に身の危険を感じて後ろを振り返ると興奮で顔を真っ赤にした赤毛の女性。先生がいた。
「全く。驚かせないでくださいよ。どこにいたんですか」
「いい!ヒカリの短い悲鳴もすごくいいな。このまま襲って私のなんやかんやを突っ込みたいくらいだった」
「ひ。ひいいい」
「勇者君と顔を合わさないように別室に隠れてたんだが、その甲斐あったようだ」
「なんでですか」
「殴られそうだったからさ。ファミレスからの電話の件、根に持っていたら嫌だなと」
「う、器が小さい……」
「ああ。蔑みの眼も……」
「いや、そのくだりもういいです。で、何でそれでいいなんて言うんですか。アサトまたサボろうとしてますよ」
「ああ。あれか。何か気づいたんだろう。前向きはよいことだ。大方観察と研究から始めるといったところだろう」
「観察と研究?」
「そ。動物園で爬虫類の観察でもするんじゃない?この世界ではドラゴンに一番よく似ているし。あと魚釣りは鱗を取る練習とか。鱗を剥がさないと大きなダメージは与えられないので」
「なるほど。全く気付かなかったです…さすがアサト」
「技の完成が間に合うのかはさておきだがな」
「それはアサトなら大丈夫です。一夜漬けの鬼ですから。問題はそれで倒しきれるか……」
私のアサトへの謎の信頼に、珍しく変な顔をする先生。
「勇者君も変なところで信頼されている。まあ、技はご立派でもレベルは足りてない。倒しきれるかは、運次第だろう。竜殺しの剣もあることだし、五分五分といったところか」
「あ、竜殺しの剣ありがとうございました。お礼が遅れてすみません」
「直接渡すのはルール違反。だとしたらあの形が一番よいだろう。私にできる限界ギリギリがアレ。勇者と言ったら他人の家や店を勝手に漁ってアイテムやらお金を持っていくものだろう?」
「何の偏った知識ですか!!!」
ひとしきり話したあとで訪れた沈黙。少し不安そうな顔になった私を気遣ったのか、先生は言う。
「何にしろ、心配しても仕方がない。だから。君は君にできることをしたまえ。ヒカリ」
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