第16話 ドラゴンを倒す方法は

 次の日。

 アサトと私は午後から最寄り駅に集合した。なぜ集合時間は午後なのに、アサトは寝ぐせたっぷりで来るのだろう。両サイドから角のように髪の毛が跳ねている。軽くお互い挨拶をかわしてからアサトは聞く。

「午前中、どこにいたんだ?」

「ああ、大学ですよ」

「大学?」

「ええ、地下室で文献の検索を」

「大学の地下って次元世界とつながってんの?」

「あ、いえ、昨日あの後、越境者のデータ収集したいという話をしたら先生が『そんなこともあろうかと思って大学の書庫に検索用のPCを設置しておいた』って」

「あっそ」

 若干引いた顔ではあったが、先生のひととなりはアサトももう知っている。深くは追及して来なかった。

「アサトこそ午前中はどうしたんですか?学内で見かけませんでしたが」

「気分じゃないから休んだ」

「そうですか」

 こちらも深くは追及できない。だって、数日後に最強の生物といっても過言ではないモノと戦うのだ。

「じゃ、行くぞ」

 いつもの駅から電車に乗り、私たちは道具屋に向かったのだった。

 道すがら、私たちは話す。

「で、どーなんだ?ドラゴンとの対決の記録、残っていたか?」

「ええ。まあ。ただ、見せるのが憚られるような内容なんですが。

・勇者級含む旅人、数組で挑むも全滅

・才能級の旅人、遭遇後数分で行方不明(ロスト)

・勇者級の旅人10組で挑み、勝利。その後唯一の生き残りの旅人引退

というような内容ですね……。あとは似たような報告が数十件。基本的には……全滅のパターンが非常に多いです」

「ロストっていうのは?」

「恐らく死体も残らなかったか、街や国の崩壊により確認できずに終わったかでしょうか。ただ、ドラゴン自体は様々な場所で現れてはいるようで、出現の報告は戦闘の記録よりはるかに多いです。ドラゴンの死体なども見つかった例があります」

「ということは少なくともこれでドラゴンが死ぬってことはわかったな。記録には残っていないが誰かが倒したり、撃退している可能性はある。まあ死体に関しては病気などで死んだ可能性もあるが……。ちなみに生き残って引退したって勇者級の旅人には話が聞けないのか?」

「この日本の話ではないですので直接話を聞くのは無理ですが、記録は残っています。ただ問題は。あんまり文明が進んだ次元世界ではないようで、単語での記録しか残っていません。翻訳した内容を見せますね」


鱗 硬い 剥がす 攻撃 息 強い みんな やられた 戦い やめる


「戦うと生き残ってもトラウマになるレベルの強さってことか。なんかもう希望が全く見えないな。笑うしかねえ」

「この街の存亡がかかっています、頑張りましょう」

 としか私は言えない。乾いた笑顔を見せた後、ため息をついてからアサトは情報を整理する。

「硬いうろこに覆われている。か。それを取り除く必要がある。ってことか。あとはブレスだな。炎を吐いたりだとかってのは、物語上でもよくある。まあこれは、息を大きく吸った段階で逃げるしかないだろうな」

 どれも難問だ。打開策は思いつかない。

「で、だ。おれも昨日伝承を調べてきた。ドラゴンの倒し方だ」

「え、確実な方法が存在するんですか」

「奴らは状態異常に弱いらしい」

「う、うーんそんなデータあったかな……」

「特に酒だ」

「酒?」

「ああ、酒を沢山飲んで、泥酔して寝た隙にめった刺しにすると倒せると」

 そんな話は聞いたことがなかったので、とりあえずこの世界のネット端末で私は某ペディアを検索する。あ、出てきた。

「八岐大蛇伝説。これは蛇では」

「伝承だから、蛇かドラゴンかなんてわからないだろ」

 たしかに。

「まあ、そうですけどちょっと微妙ですね」

「飲み会開いて、飲み放題つけてコールしてそれを飲ませて潰してから……」

 この話、現代日本の勉強した時に出てきた、大学生(悪属性)の生態と同じだ……。

「あなたまさかそういうのやったこと……」

「ないよ……運動部のサークルの飲み会はひどいらしいが」

「良かったです。安心しました。そうですね、アサトは陰キャの勇者ですもんね」

「いや、クズの勇者な。陰キャではない。決して」

「あ、着きましたね」

「お、おい」

「先に行きますよ。せんせー!こんにちはー」


 私が入りづらくなるように作られた怪しいお店も、二回目となるとそんなにハードルを感じない。ピンク色の18禁の暖簾をくぐって店の中を見回す。が、誰もいない。

「留守、ですかね」

「あくまで手を貸さないつもりかあの人は」

 後から入ってきたアサトは人の気配がないことに苛立つ。でも、あの先生の性格上、何らかの助けはしてくれそうだけど……。

「手紙などがあるかもしれませんし、少し探してみましょう」

「ああ、わかったよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る