第11話 VSハーピー(後編)

 確実にふいは突いた。が。跳躍に先ほどまでの勢いがなくなっている。

「だめだ、飛距離が足りねえ!!」

「な、なんで」

 目をやると魔法陣がいつの間にか不完全なものになっている。まさか、ハーピーが。先ほどのつむじ風。やられた。

「魔法陣が部分的に破壊されています」

「くそっ届け!!略式氷雪嵐!!」


 アサトが繰り出した氷の礫はハーピーに命中した。だが、まだハーピーを落とすことはできていない。そのままアサトは落下した。

 着地の最後の一回を使用してしまった。

「ダメだ。いったん引きましょう。これ以上は攻撃を当てることはできません」

「俺たちが引いたらハーピーはどうするんだ」

「この公園が破壊されるか、近隣住民に被害が出るか……」

「じゃあダメだろ。ここであいつを倒さなきゃ」

 こんな時だけ勇者っぽく振る舞って。これが彼の責任感なのだろう。

「でも。もうハーピーに対抗する手段が」

「あるよ」


 え?まさか、アサト、さらなる奥の手があるって?

「秘密兵器。出すか。ヒカリそこにある俺のリュック投げてくれ」

 戦いが始まる前に渡されていたリュックをアサトに渡す。彼はそれを開け、中から。え!?

 リュックから出したのは靴!?なのだが、異常な形である。えーと、これは、靴のソールに大量の紙束がくっついている。というか何かの紙束を針金で靴にグルグルに巻き付けてあるというものだった。

「あ、アサト。何それ。ハムの化け物?」

「無限ジャンプシューズ」

 ドクター〇〇の発明品?

「え。えええええええ、まさかその紙束全部」

「ああ。跳躍用の魔法陣が書いてある」

「ど、どうやってこんなに」

「お前からもらった本の魔法陣のページを大学の図書室で大量コピーしたのを昨日魔力込めた。持ち込みOKのテストってな」

「そ、そんなんで魔法使えるんだ……てゆかまたこの戦いをテストって……で、実際この魔法陣はどの程度使えるんですか」

 先ほどハーピーにつぶされた魔法陣のように、コピーでは完全な跳躍ができないかもしれない(というかあんなに頑張って準備した魔法陣とこのコピーの力が同じでは辛すぎるが)

「ヒカリの魔法陣よりは弱いが、空中でも跳躍ができる。つまり」

「そ、空を歩けるってこと!?」

 腰を下ろして靴を履き替える。そして。


「いくぜええええええ!!!!」

 地面に足を置いた瞬間。アサトが剣を持った右手を掲げて大きく跳躍した

 〇リオか?

 思わず私は呆然としてしまう。2Dにして横から見たら某ファミコンゲームの主人公のように見えるだろうか。帽子と髭はアサトにはないが。何故彼の戦いはこんなに真剣に見えないのだろうか。私は頭を抱えた。

 宙を蹴ってさらに跳躍。

「よ、よかった。マ〇オじゃなかった」

 マリ〇は2段ジャンプはしないからだ。


 アサトは宙を何度も蹴ってジグザグに上昇し、ハーピーに一太刀浴びせた。完璧な当たりだ。

「シギャアアアアアアア」

 この世のものとは思えない悲鳴を上げながら、ハーピーが羽を逆立てて弾丸のように飛ばしてくる。が、アサトの宙での動きは不定形で捉えどころがなく(いくつか魔法陣が不完全なのだろう)、羽は当たらない。

 上空にいるハーピーに切り付けては宙を蹴ってその場を離れるというヒット&アウェイにより、アサトは遂にハーピーの羽を切断した。

 片翼を失ったハーピーはバランスを崩して墜落し地面に激突した。激突の衝撃で足も曲がっている。もうほとんど動けないだろう。

「とどめだ!!略式氷雪嵐」

 アサトが放った氷の礫が重力で加速されハーピーに降り注いだ。

「グ……ゲ」

 氷の礫に貫かれたハーピーは動かなくなり、黒い霧になり溶けていった。

「あ、アサト!!やりました!!勝ちましたよ!!私たち」

「ああ!!」

 アサトは素早く宙を蹴ってジグザグに動きながらガッツポーズをする。

「アサト?そろそろ降りてきていいんですよ?」

「いや、降りれねえんだ」

「え?ええええええええええ」


 戦いの勝利で集中を切らしたのか、宙を蹴る力が強すぎて、アサトが広場の上空をすごい勢いで横切る。

「うわあああああ、助けてくれえええ」

「あ。まさか。両足の魔法陣を使い切るまでは着地できないの!?

「ああ、そうなんだよおおお!!着地魔法で着地させてもらうつもりだったから!!」

「もう使えません!!木に!!木に突っ込んでクッションに!!」

「おおおおおおおお」

 何とか細かくステップを踏んで、方向をずらし、大きく生い茂った木にアサトは思いっきり突っ込む。


 ガサアッ。

 バキバキバキバキッドサッ。

 いくつかの枝を折りながら、アサトが背中から落ちてきた。

「か、完全勝利……」

 そういってアサトは気を失った。

「アサト!!」

 慌てて近づいてみると小さな寝息を立てている。

 寝息を聞いて私は少しホッとする。大きなけがはなさそうである。

「完全勝利とは程遠いですが……ありがとう。アサト。お疲れ様」

 そして朝が来た。太陽が昇って1日が始まる。人の往来が始まるだろう。太陽に照らされたアサトをみて私は思った。

「それで、私、どうやって家までアサトを運ぼう……」

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