第10話 VSハーピー(前編)
「出現地。あの桜のところでなくてよかったですね」
「ああ。まだ散ってほしくないからな」
近隣公園というのはとても大きな公園で広場がいくつかあり、遊歩道でつながっている。
そのうちの一つに私たちは居た。
ハーピー出現予想日当日。
早朝。太陽はまだ見えず、世界全体が青く染まっている。
その中で染みが広がっていくように夜の黒が凝縮してこの世界への侵入者を顕現する。
艶やかな黒髪の、整った顔立ちの女性が現れた。が、表情はひどく下品で口からは涎を垂らしている。腕はなく、肩から羽が生え、羽の中程と、足には鉤爪が付いているため一目で人間でないことがわかる。扇情的な服を着ている越境者を見てアサトが言った。
「え、エロい」
「ヤメロ変態」
男子というのはこういうのでもいいのか?いや、たしかに美人ではあるけど。表情から人でないこともわかる。
「なんか表情もよくないか?普通にしてたら多分めちゃくちゃ上品、えーと例えるなら女子アナ的な?なのにあんなだらしない顔して」
「……」
「やべっ、俺何かに目覚めそうだ……」
1人で異様な盛り上がりをみせる変態勇者。私は無言でアサトの頭をはたいた。かなり強く。
クリーンヒット。バチっと音がして、アサトが頭を押さえる。
「誘惑の魔法でもかけられてるんですかあなたは」
「わかってるって。いくぜ!!」
急にアサトは真顔になり、剣を構える。多分こいつ少なくとも混乱状態にはなってただろうな。アサトは走り出す。
私たちは宙に浮いている状態でハーピーが現れるのを予想していたが、実際の敵は地面に直立して現れた。剣が届く位置にいるのだ。私たちからするとこの隙を狙わない手はない。
旅行者つまり資質をもつもののスキルにレベルアップというものがある。実際にファンファーレが鳴るわけではないが、戦いを重ねるごとに身体能力や反応速度が上がっていくのだ。彼も2回のゴブリンとの戦いにより、身体能力が向上している。走り出して間合いを詰める速度も上昇していた。一般の成人男性よりはかなり早いといえるだろう。
いける そう思った瞬間。ハーピーの羽が大きく膨らんで風を巻き起こした。
吹っ飛ばされ、アサトは公園の広場の入り口付近にまで飛ばされる。
「アサトっ!!」
「大丈夫だ。無傷。だが思った以上に旋風が強いな」
アサトは立ち上がり、服についた土やら砂やらを払う。
「ケタケタケタ」
ハーピーはやはり人外を思わせる笑いをした後に、大きな鳥が鼠を捉えるような態勢でアサトに襲い掛かる。
「略式氷雪嵐」
アサトは素早く呪文を唱えて氷の礫を繰り出す。急所には当たらなかったが、敵は怯む。そのすきにアサトは剣を横なぎに振るう。
が、間一髪で敵はそれをよけてしまった。警戒したのかそのまま上空へ。
「魔法は当たったけど……強いな」
「鉤爪じゃなくて体に当てないとダメージは薄そうですね」
「ああ」
「用意したジャンプポイントは5つ。それでやつを地面に落とせればいいんだが」
「頼みますよ」
ハーピー出現前に私が魔力を込めて跳躍用の魔法陣を広場に書いた。その位置は簡易図にしてアサトに渡してある。広場の端に星を描くように5つ。彼は疾走してその一つに向かう。
「いくぜええええええ」
地面に目立たぬよう書いた魔法陣が光を放ってアサトを中空へと押し上げる。使用した魔法陣の回路が焼けきれるころには、アサトは敵と同じ高度にいる。ハーピーは驚いたような反応。
「ジャンプ斬り!!!!」
ハーピーの胴をアサトの剣が切り裂いた。が、浅い。相手が驚いてバランスを崩したためにとどめを刺すことが出来なかった。
「くっそ。もう一回か。ヒカリ着地よろしく!!」
「はい!!」
私は大いなる大地に祈りをささげる。地面へ墜落の瞬間アサトを光が包み込み、地面に軟着陸させる。上空から狙われないようアサトはすぐに態勢を立て直して構える。大ジャンプからの一連の流れは前日に練習したから手慣れたものだ。私は魔力の回復と早朝の準備のため早めに切り上げたが、アサトはそのあとも最終調整のため残っていたようである。
敵からの追い打ちがないとわかるとアサトは駆け出し、次の魔法陣を蹴る。
繰り出した剣は鉤爪に弾かれ攻撃失敗。
アサトは空中で泳いだような態勢になるがそのまま落下。
そして着地。
ハーピーがつむじ風を起こす。飛んでくる木くずやら石やらを地面に転がってよけるアサト。
「アサト。あと一回です。慎重にいってください」
「ああ。わかってる」
剣を握りしめ、アサトは立ち上がって走る態勢に。
1回目の攻撃は相手の隙をつけるだろうと私たちはわかっていた。だが、上手くいかないこともあるだろう。2回目は相手は冷静に対処してくる。ならば、3回目は。
「再度、奇襲をしかける」
跳躍からの斬撃は躱されるが、アサトの落下した先はもう一つの魔法陣。光り輝く魔法陣が再度アサトを上空まで押し上げる。そう。3回目の攻撃は連続攻撃だ。私たちの一夜漬けの練習の成果はこれだ。
「ダブル!!ジャンプ斬り!!!!」
「決まって!!!!お願い!!」
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