第9話 ファミレス会議
ファミレスの中。
私やアサトの家に近くで夜遅くまで営業しているファミレスだ。アサトの話によると、テスト前は学生の勉強で賑わうらしい。飲食店で勉強をする、というのは私の世界の文化にはなかったな。
ソファのある席に案内されメニューを貰う。予告通り私はチーズインハンバーグだ。注文して数分で、熱々の鉄板に乗ったハンバーグが運ばれてくる。ナイフとフォークで切り分けて、チーズが滴るハンバーグを口にほおばる。
「うーん美味しい」
明日のお弁当にご飯を作ったわけだけれど、食べずにいてよかったなと思う。幸せだ。
「チーズ口から垂れてるぞ」
呆れたような声で言ったアサトはオムライスを食べている。私は、ペーパータオルで口元のチーズをぬぐう。
「日本は食のレベルが高いんだよ。ほかの世界にはこんな安くて美味い物が食える世界はないだろ?まさしく唯一級だ」
「伝説級のランクを軽々しく……」
私とアサトの間には大皿に盛られたポテトが置かれている。オムライスを食べ終わったアサトが大皿からポテトを一本持ち上げ言う。
「で、次の敵ってどんなやつ?ゴブリンか?」
「いえ、もうちょっと強いでしょうか。でもまだ戦える相手かと。次の敵は、ハーピーです」
ちょっと考えた後、アサトが言う。
「ん、聞いたことあるな。ゲームとかで出てきた」
「この世界だと神話の時代からハーピーというのは存在しているようですが、越境者ですね、これは」
「なるほど、UFO伝説のUFOは実在した的な感じか」
「例えはちょっとよく分かりませんが、実際に存在するからこそ物語になるのでしょうね。現に謎の円盤は高度な技術を持った越境者なのでしょう。で、ハーピーです」
「ああ。羽と鉤爪を持った女性型モンスターかな」
「そうですね、実際の姿はどのような形かはわかりませんが、鳥と女性を合体したような見た目をしているようです。鉤爪にも気をつけた方がいいですが、羽根で旋風を起こすとも言われています」
「上空に飛ばされた場合はどうすりゃいいんだ。落ちたら死ぬだろ。多分」
「ええ。着地自体は、衝撃を和らげるような魔法がありますが、3回くらいしか使えません」
「いざという時に一回。となるとあと2回。ミスれないか」
「とすると、攻撃を確実に当てなきゃいけないが。攻撃……届かないよな」
「略式ブリザードが当たればよいのですが、あれってまだ使えますか?」
「ああ。2回使ってるから何となく定着してきたな。戦いの前に確認すれば使えると思う」
「腐っても、いや、クズでも勇者ですね、やはり」
「誉め言葉と受け取っておくぜ」
「まあ、縦横無尽に飛んでいるんだ。確実に避けるよな。敵は」
「跳躍してくることは予想していないはず。なので、大ジャンプして剣で叩き斬ったらどうでしょうか。意表もつけると思います」
「真面目な割にその辺大振りなアイデアも出すんだな、ヒカリって」
「ええ、まあ。何だか改めて言われるとちょっとやですね」
「じゃあ氷魔法で隙をついて、跳躍して剣で斬る。これを決め技にするか」
「ええ」
「で、大ジャンプってどうやるの。剣をあてないといけないよな」
「そうなりますよね。魔法を使います。氷魔法のように詠唱するものではなく、今回は魔法陣です」
人差し指で円を描いてその中に星を配置する真似をする。魔法の発動についても詠唱以外にもいろいろな方法があるのだ。
「地面に魔法陣をあらかじめ書いておき、魔力を込めておきます。一度使えば回路が焼き切れて魔法陣は使えなくなってしまいますが、いくつかのポイントに設置しておけば大丈夫でしょう。出現予定地は近隣公園の広場。敵が来る前に私が書いておきます」
「魔法陣かあ。どんなやつ書くんだ?」
「私が渡した書籍の136Pに載っていますよ」
「なるほど。ふーん。あとで読んでみるか」
パラパラと書籍をめくった後に、彼は該当ページに付箋をつけた。
「魔法陣は便利ですね。呪文は唱えるのに時間がかかるので、発動スピードに差があります。あらかじめ巻物などに魔法陣を書いておいて暴発しないように封印したあとで持ち運んだりとか」
「え、じゃあこの本の魔法陣も効果あるってことか?」
アサトは焦ったような口調で言う。
「確かに。いい質問ですね。でも、発動はしません。まあ、魔力を込めたら使用できるんじゃないでしょうか。限りなく正しい記載の正しい魔法陣ですし」
「へーなるほどなあ」
興味を持ったようで、その他の魔法陣のページもパラパラとめくっている。
「まあ、素人に魔法陣の記載は難しいので、さっき言ったように私が当日公園で描きます。なので前日にやることは、跳躍魔法と着地魔法の練習(私が唱えます)、氷魔法の練習。空中で剣を狙ったとおりに振る練習でしょうか」
「おう」
「当日になったら簡単な地図にジャンプポイントを記載しましょう」
「おお。わかった!!」
さて。話も大体まとまった。いつの間にか皿の上のポテトはあと数本にまで減っている。残りを二人で分けて食べきった。少し冷めたポテトは、運ばれてきてからの時間経過を示していた。私たちは明日も学校である。
「じゃ、帰るか」
「ええ!!」
「あ、ヒカリ。ちなみに俺、今日財布忘れてよ」
「QRコードで払ってください」
とは言っても、約束通り、ポテトだけは私が奢ったのだった。
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