第8話 和解の花見
「今暇?花見行こうぜ。7時に近隣公園待ち合わせな」
突然の電話。私はアサトから花見に行こうと誘われたのだった。
日が落ちるとまだ夜は肌寒い。少し考えた後、私はユニークブラックという店で先日買ったグレーのパーカーを上に着た。
近隣公園というのは、商店街の近くにある草野球場などもある広い公園で、毎年桜の時期は花見の大学生が宴会をする場所らしい。
家から歩くと10分程度。
私は18時40分くらいに支度を終えて公園に向かう。
日が長くなってきたとはいえ、19時も近づいてくると辺りは暗くなってくる。
平和な住宅街、商店街を通り、公園についた。いくつかある入り口の1つ。待ち合わせ場所にはアサトの姿が。
「おう」
「ん」
一言で挨拶を交わす。謝ると決めたのに、まだ上手く喋れない自分がいた。
「じゃ、花見するか」
私たちは舗装された遊歩道を横並びになり、2人で散歩をした。遊歩道の周りには桜の木がちらほらしか見えず、公園特有の街路灯が満開になったそれをぼんやりとした白に照らす。
桜は散っているものもあるのだろう、アスファルトの道に白い斑点がポツポツと。
遠くで大学生だろうか、騒いでいる声が聞こえる。私たちは無言だ。
風が強く吹いた。桜が散る。自然現象が話すタイミングをくれたようだった。
立ち止まる。横並びで歩いていたアサトは自分だけ先を歩いていったことに気づき振り返る。
「ごめんなさい」
「こちらこそ悪かったよ。ヒカリのこと、まったく考えていなかった」
誤解していたことを言わなければならない。
「他の人からあなたの話を聞きました」
ショータロー、余計なことを。とつぶやいた後、アサトは言った。
「何を聞いたんだよ」
「責任感の話。アサトはアサトなりに責任を持ってやってるって。決して適当なわけではないって。だからもっと信頼して任せて大丈夫だって」
「やめてくれよ」
しばらく私たちはまた黙った。
「この前の小テスト、期末のテストの加点になるんだ。だから絶対取っておきたかった。期末のほうはまた前日勉強になるんだろうけど」
「そうなんですね」
アサトに追いついてまた横並びに。言いづらいことは顔を見ないで、歩きながら話したい。
「私は、ずっとコツコツ努力をしてきたタイプの人間でした。親は裕福ではなく、必死に働いて魔法学校を出してくれました。あなたたちのいうところで言う高校ですね」
「ああ」
「だから、適当な人は嫌いです。でした。越境者が来るのに、何も対策しないのは不謹慎だと。この話を受けてくれたのは感謝しています。でも、いずれ負ける」
アサトは相槌を打つ。
「でもさっき、私は異常な集中力で本の内容を確認して付箋を貼っていく姿を見ました。一夜で必要なところをちゃんと網羅できるように」
「あれ、見られてたのか」
「わかりました。あれがあなたの努力の形だって。だから。私もあなたを信じます」
ストレートな一言にアサトも驚いたような顔をする。
「あ、ありがとう」
「だけど、必ず作戦会議をすること。私もある程度知識があります」
アサトが言う。
「次の敵、なんだったっけ。……作戦会議、しようか」
「実はアサトからの電話の前に次の越境者予報が来ました。でも、一晩で効率的に攻略できるように情報を纏めましょう!!」
そう。アサトにはアサトのやり方がある。私は彼が全力を出せるようサポートするのが役割だということを忘れていた。
そして。彼には学生というこの世界での役割がある。それを無視して私たちの役割だけ押し付けることはできない。
越境者はまだ対処できないレベルのものは来ていない。ゆっくり私たちのスタイルを作っていけばいいのだ。
遊歩道が終わり、広場につく。開けた視界に入ってきたのは大樹たちだった。満開の大きな桜がいっぱいに広がっている。鮮やかなピンク色の花びらが集合して一つの色をつくる。こんなに大きな桜、こんなにたくさん。初めて見た。
「わあ」
思わず驚きの声が出てしまう。
「ここ、この場所!!すごくいいですね。なんか感動しました」
「ありがとう。俺、この公園の景色好きでさ。たまに来るんだけど、ヒカリがいなかったら、俺と一緒に戦ってくれなかったら。ゴブリンがここも壊してたのかなって。先に謝らせてすまん。順序が逆になって申し訳ないが、俺は何とかこの街を守ってみせる。だから、協力してくれないか」
アサトは手を差し出してきた。私はそれに応えて握手をする
「ええ!!」
「よし、じゃあ早速ファミレスいくか!!テスト勉強といえばファミレスだな」
「あなたの中で戦いはテスト扱いなんですね……じゃあ、えーと私チーズインハンバーグで!!アサトには好きな山盛りポテトを奢ってあげましょう」
「いや、それ山盛りポテト一択……」
「マヨネーズかケチャップかだけ選ばせてあげます!!」
「いや、山盛りを調味料一つはさすがに飽きるわ」
「あははは」
私はやっと自然に笑えた気がした。
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