第3話 クズ大学生、久しぶりに登校
「アサトっ。お前…!!」
大学の校舎に入った瞬間上擦った叫び声が聞こえてきた。次元世界の通訳者権限を使用してアサトの大学に編入したわけだが、初日から波乱の予感がして、私は思わずため息をついてしまう。近づいてくる金髪を見てアサトが言った。
「おお、ショータロー」
「おま、おまえ…こんな美少女と付き合ってたのか?白い肌、艶っぽい髪、黒子ひとつない圧倒的美の顔面…裏切者が…。で、こんな女神この学校にいたっけ、俺知らなかったよ」
初対面の金髪の青年は、すごいテンションなのに、やけに説明口調で私の外見を説明しながらアサトに話しかけた。というか明らかに誇大な表現が多用されており、自分では見た目はコンプレックスだらけなのだが、この場に女性は私しかいないので、消去法で私の説明なのだろうとわかった。戸惑いつつもアサトに説明を求める。
「あの、アサト、この人は」
「ああ、後輩」
「後輩めちゃくちゃ慣れ慣れしいですね!?」
思わず食い気味に突っ込んでしまった私に金髪が横やりを入れる。
「ちょっと待った待った、元・同級生だろ」
うわあ、この人……。
「つまり」
アサトはこともなげに言う。
「そ、留年生ってこと」
「駄目な友達の……」
「おいおい。出会って数分で俺をかわいそうなものを見る目にならないでくれよ」
「は、はは」
私は乾いた笑いしか出ない。また不真面目な登場人物が……。
「おい、ヒカリ、俺トイレ行ってくるわ」
「え!?アサト、この状況で私を置いていかないで」
「お姉さんヒカリちゃんって言うんだね」
「あなただけは私の名前を知らないでえええええええ」
叫び声が私たち以外誰もいない廊下にこだまする。アサトは振り向きもせず、廊下の角を曲がって行ってしまった。
「はあ、はあ、はあ」
こんな場所に長くいたらクズがうつってしまう。早く離れなければ、とは思いつつもアサトがいないと、どの教室に行けばいいのかもわからない。諦めて彼を待つことにする。
そんな私にニヤけた顔でショータローさんが話しかけてくる。
「アサト、楽しそうだよな」
「え?そうですか?」
「あいつ最近ずっと元気なかったからなー」
「お友達が留年してしまったんですもんね」
故郷でも不真面目なクラスメイトというのは居たのだがどうにも好きになれなかった。彼にも毒を吐いてみた。
「ああ、そうそう…って遠慮ねえなヒカリちゃん」
「留年は自己責任ですから」
「ま、そうだよな。俺もさすがにまじめに過ごすわ。にしてもそんなに心閉ざして。クズ達に恨みでもあるのかね」
「私は学生時代まじめに生きてきたので、あなた達の生態がわからないだけですよ」
「ははは、そりゃ面白い。いいコンビ組んだな、アサトは。あれで、あいつは成績優秀者にも一目置かれているんだぜ」
「面白がられて見世物みたいになっているだけでは……??」
「あーそうかもな。はるか格上の成績を持つ奴らは俺ら持たざる者たちの足掻きを笑っているのかも」
「はるか格上にいるとしたら、そもそも眼中になさそうですが……」
ずっとおちゃらけた表情だったのに、急にまじめな顔をしてショータローさんが言う。
「ま、冗談はさておきよ、ヒカリちゃん。——アサトのこと、よろしくな」
「えっ?」
「じゃあ、俺運命を変えるためにもう一回一年生やり直さなきゃいけないからさー!!」
真意を聞くまでもなく、彼は後ろ手で手を振って去っていった。
「いや、留年はタイムリープじゃないから!!」
―――
「おーお待たせ、あれショータローは?」
「あ、授業行きましたよ」
「お、まじか。じゃあ俺たちも」
「授業ですね」
転入生なのだ。緊張するが、まずは大学生活に慣れなければ。
「——食堂でダベろう」
「教室に連れて行けえええええええええ」
叫ぶと同時に、ポケットの中で振動がした。スマホだ。取り出して内容をチェックする。
「なに、ショータローから電話?」
「連絡先交換してないです!!」
「で、連絡は誰から」
自分から弄ってきた癖に話をまじめな方向に戻しやがった!!怒りを抑えて私は言う。
「……通訳者協会日本支部からです。また来週越境者がこの辺りに現れそうって」
アサトの目つきが鋭くなった。
「敵は?」
「あ、ゴブリンですね」
「この前倒した奴か。じゃ、大丈夫だな。お!ヌシオじゃん久しぶりー!!」
アサトは急に弛緩し、視界の端を通った友人(だろう)を見つけてそちらに駆け寄ってしまう。
「ちょ、ちょっと!!前のより強いかもしれないですよ!!油断しないでください」
「大丈夫だって。ちょっとあいつと話してくるからそこで待っててくれ」
そう言ってまた私を置き去りにしてしまう。アサトにずっと振り回されっぱなしである。
「次の敵もゴブリン。なら、アサトが不真面目でもなんとか大丈夫、かな?」
有り余る資質で、一晩で準備をしてきたアサトに私は反感を感じながらも、多少安心感を覚えている自分がいた。
それにしても、えーと、私も何か忘れていたような……。
「あ!!授業!!教室!!早くいかなきゃ!!」
アサトはとっくにもういなくなっている。仕方なく私は、教務課に行って教室に案内してもらうことにしたのだった。
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