第22話 ホルオールの町


 アグラメセア王国内では、16つの町を移動しなければならない。

 4つ目の町、ホルオールの町は、大きな湖の畔にあった。

 海はおろか、湖すら初めて見たとピコッタは大騒ぎだ。

 屋台で、売ってる串に刺した焼魚が珍しくて仕方がない様子。

 夕方、町につくなり、屋台の前から動かなくなったので、1本買ってあげた。

 もちろん、自分の分も買ったけど。

 そんなに大きくない魚は内蔵も抜かれ、塩で味つけされていたので美味しかった。

 癖のない鮎とかに似ている気がした。

 宿屋の食事も当然のように魚は料理だった。

 貝の入ったスープは、なかなかの美味。

 煮魚は、味付けは悪くないが、骨が多くてちょっと。

 いっそのこと、揚げてしまえと思ったが、未だにこの世界で揚げ物を、見たことはない。

 小エビとか、揚げたら美味しいのに。

 地方の郷土料理は旅の楽しみと教えたので、ピコッタは新たな町に着くたびに食べ物に期待している。

 この町はかなり、得点が高かったようだ。

 串焼きを食べてから終始、ご機嫌な様子。

 ピロートークでも、"魚、美味しかったね" と、しみじみ言っていた。


 この町には、冒険者ギルドがある。

 湖周辺に魔物が出るそうだ。

 観光も兼ねて、もう一日滞在する事にした。

 移動の毎日に、若干、飽きてきたとこなのが本当のところ。

 朝食は、焼き魚が出た。

 魚の種類が違うのか、骨はそれほど気にならない。

 冒険者ギルドに行くと、お決まりのように子供扱いされた。

 気にしても仕方ないので、常設依頼の貼ってある壁を確認する。

 もっと、低い位置に貼ってくれると見易いのだけど、後でピコッタも同じような文句を言っていた。

 "ラントピア" と言う魔物は何だろう。

 "ポイズンバッド" はコウモリの魔物だろうか。

 ホーンラビット、フォレストウルフは、メジャーな魔物らしい。


「ラントピアって、どんな魔物ですか? 」


 脇にいた男に尋ねる。


「子供は、知らなくていいんだ 」


「あの、ラントピアってどんな魔物?」


 女性冒険者にも声をかけたら、教えてくれた。


「魚の魔物よ、たまに漁師が怪我するとかで、常設になってんのよ…… 水の中に入って戦うのは坊やも嫌しょう? 」


「魚…… 」


 水の中に入って戦うのは流石に遠慮したい。

 魚の魔物では、水の中では強敵になりそう。

 湖の反対側に、小さな森があって、そこから来る魔物が大半だとか。

 これは、別の冒険者から聞いたこと。


 冒険者ギルドを後にして、湖へと向かった。

 魔物退治が目的ではなくて、観光だ。

 砂浜には、木造の舟が丸太の上に乗って上がっている。

 きっと、漁は早朝とかにやるのだろう。

 網を広げて手入れしている人を見かけた。

 投網の漁もするらしい。

 予想だともりで、一匹ずつ仕留めるのかと思った。

 それでは、数が取れないから、商売にはならないのかもしれない。

 売ってる魚はマグロのように大きなサイズじゃないから、一匹とれたら、大儲けなんてことにはならないのだろう。

 釣りはしないのかと、不思議に思った。

 考えたら、丈夫な糸がないと、釣り竿は成り立たない。

 浮きは、木でも何でも使えるが、釣り針を作るには、繊細な作業が要りそうだ。

 投網が1番、現実的な漁なのだと納得した。


「こんにちは 」


「ん、なんだ、子供がどうした? 」


 網の手入れをしている人に声をかけた。

 漁の事を聞いたら、殆どの漁師が投網をメインにしてて、銛で大物を狙う漁師はとても少ないそうだ。

 それも、ラントピアの影響らしい。

 早朝以外の時間はラントピアが出ていて、危なくて漁に出られないとか。

 銛漁は、昼から夕方にかけても行うらしく、ラントピアによる被害に合いやすいと言う。

 魚の事は漁師が1番よく知っている。

 恐らく言う通りなのだろう。


「銛漁する人って? 」


「もう少ししたら、来るじゃねぇか…… 」


 男の視線を追うと長屋のような建物の方から長棒を手に、こちらに歩いてくる人影があった。

 どんどんと近ずいてくる。

 長い棒は銛と槍、それを持つのは、ひょろりとした青年に見えた。


「銛で漁ですか? 」


「ん、 ああ、そうだ…… 」


 とある舟に道具を積むと、グイグイと湖面に向けて舟を押しはじめる。


「あの、ラントピアって魔物、知ってますか? 」


「ふっ…… 良く知ってらぁ…… オヤジの仇だからな…… 」


「あ…… 」


 聞く相手が悪かった。

 どんな魔物か教えて貰えると思ったが、親の仇だと言われたら、それ以上なにも聞けない。

 舟は水面に浮かぶと、を漕いで、静かに離れて行った。

 ぎぃ、きぃ、と、木の擦れる音を微かに残して遠ざかっていく。


「あいつもよぉ、 家族背負って、どうしようもねぇのに、決して銛漁辞めようとはしねぇんだ…… 妹が怪我して金が要るだろうに…… 」


「妹? 」


 ピコッタがその単語に反応する。

 世界妹同盟の会員でもないだろうに。

 その後、漁師のおじさんに怪我した妹のいる家を聞き出して、向かった。

 全くの他人なのに、いきなり訪問して、怪我治しまっせ!では、ないだろうに。


「こんにちは~」


 文字通り、家は少し傾いていた。

 火の車でなくて、良かったと思う。

 ピコッタが主導権を握っているかのようだ。

 建付けの悪い戸を開けると、ズカズカと、中へ入って行く。


「誰かいますか〜? 」


「おかあさん! 誰か来た! 」


 奥の部屋から声がした。

 土間の向こうの扉があいていて、おかあさんほ、裏にいるらしい。


「は〜い、 はいはい…… どちら様かしら? 」


 理由は知らないが、この家、獣人族が異常に率高い。

 オールキャストが獣人族だ。

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