第19話 ダークテイム


「魔法の練習? 」


 路地裏へ出掛けると、当然のようにピコッタもついて来た。

 猫の餌やりではなくて、魔法の練習をしにいくのだと話すと、"すごーい、すごーい" と 騒ぎ立てる。

 私は魔道士で、魔法の練習中で、午後には森に行って、魔物を狩って、稼ぎに行くと教えたら、ピコッタも森に行きたがった。

 大丈夫だろうけど、森は危険なところだから、言う事は聞かないといけないと話したら、真剣な顔で頷いていた。

 ちゃんと分かっているようだ。

 と言うか、本来なら連れて行くべきではなかった。周りの目を考えてなかった。


 午前中、テイムの魔法は進展なしだった。

 屋台で買い食いして、昼を済ませると、その足で森へと向かった。

 ミリンガ達と何度も通った道だ。

 

 森についてもピコッタは怖がるでもなく、普通について来た。

 "収納" から剣を2本出し、サーヴァントの魔法で影に、持たせる。

 私は万が一に備えて、いつでも魔法を放てるようにする。

 獣人族ゆえなのか、ピコッタは足音をたてずに歩けるようだし、時折、耳がピクッと、動いて周りを警戒しているようにも、見える。

 魔物の気配は私にも分かる。

 いよいよ近づいて来る頃には、影が仕留めて死骸が転がっていた。


「魔法の剣なの? お兄ちゃん、すごーい! 」


 フォレストウルフの死骸を捌いて、魔石と角と牙を取っていく。

血抜きもしないと、いけないのだけど、持ち上げられる者が居ないので、仕方なく "収納" に放り込んだ。

 フォレストウルフ2匹に、ホーンラビット3匹で終わりにした。

 ピコッタにホーンラビットを、一匹持って貰い、私が、両手で2匹持って森を歩く。


「ん? 子供が森で何やってんだ? 」


 森を出た所で、同業者のグループと出くわした。


「いえ、ボクも冒険者です 」


「な〜に、言ってんだよ、 それは没収だぞ、森は危ないって言われてないか? 」


 全く聞き耳を持たない男が、ピコッタから獲物を取り上げようとする。

 これは、勘違いとかではないと、途中で気付いた。

 獲物を横取りしようとしているだけだ。


「お兄ちゃん! 助けて! 」


 獲物を背中に隠して抵抗するピコッタの腕に手をかけた。


「ほら、こっちに置いたよ…… 闇よ、従いし主たる者を意のままに操れ…… 」


 私は、目の前にホーンラビットの死骸を放り投げた。

 その影に念を送るように見つめ、呪文を唱える。影にウサギの目が現れるのが見えた。


「物分りが良くてお兄さん助かるぜ〜 」


 他の男がホーンラビットの死骸に手を伸ばす。

 と、ホーンラビットがムクリと起きて、跳ねた。


「おわっ! ぎゃっー! 」


 ブスリ、と角が男の胸に刺さる。

 跳ねるように角を抜くと、ピコッタを捕まえてる男に向かう。


「おい、バカ、まだ、生きてやがる! ウゲェッー! 」


 男の首にホーンラビットが取り憑いた。

 深々と角が首にめり込んでいる。


「お兄ちゃん! 」


 男の腕から逃れたピコッタが、駆け寄ってきた。

 その体に手を回して抱き寄せる。


「お、お前、嵌めやがったなぁ!」


 残った男は一人だけ。

 おもむろに剣を抜いた。

 剣を振り上げて私に斬りかかる。

 ホーンラビットは、眼中にないらしい。

 

ーーーボシュッ! ボシュッ!



2匹のホーンラビットが男の背中と腹に突き刺さる。

 振り上げた格好のまま倒れてしまった。


「お兄ちゃん、怖い…… 」


「大丈夫だよ、 ホーンラビットは、悪い奴らを懲らしめてくたから、もう平気だから…… 」


 奇しくも、ダークテイムが成功して良かった。

 バインドとか、サーヴァントとかやりようはあったものの、直接、手を下すのは良くないと思った。

 テイムなら、男達は魔物に殺られたとしか見えない。

 死骸の影でも出来るとは思わなかった。

 確か、死んだ冒険者を発見したら、首輪を回収して、ギルドに報告する義務があると聞いた気がする。

 3つの首輪を持ち帰り、肉屋より先に冒険者ギルドに寄って報告する。

 男達がホーンラビットに殺られたと、その死骸も持って報告した。

 森から出た所に死体があったと、あとから報告する者も出てくる。

 日没前に確認の為、職員が出るらしい。

 私は報告をしただけだから、すぐに解放される。

 肉屋の前に並ぶ冒険者の列を見て、今日の換金は諦めた。

 そのまま、宿屋へと戻る。


「お兄ちゃん、色んな魔法使えて、すごく強いね…… 」


 部屋に入ると、興奮気味にピコッタは言う。

 ギルドでは、子供2人が森に入っていたと報告があったが、お前かと聞かれてしまった。

 荷物を持つのを手伝わせたと、言い訳したが、今後はやらないようにと注意された。


「明日からは、ピコッタはお留守番だよ 」


「え、なんで? 言う事聞いたよ? 」


「ギルドで、怒られちゃったよ、 危ないからダメだって 」


「え〜、 危なくないのに〜 」


 不服そうだが、聞き分けのない事は言わなかった。

 湯浴みをして、食事をする頃には機嫌はなおっていた。

 ある意味扱い易くて助かる。

 ブラシで髪を熔かすのに必要だろうと、リフェルの手鏡を出してやったら、驚かれた。

 鏡は高価な物だったらしい。

 手の込んだ装飾がしてあったし、そんな気はしないではなかったが。


 明日は、猫でテイムが、出来るか確認したら、リリシャンに言いに行こう。

 まだ、ひと月は経ってないが、魔導書に書いてある中級魔法は全て習得してしまった。

 上級魔法を使える人でも紹介して貰えたらラッキー位に話をしてみようと思う。

 相変わらず寝付きのいいピコッタは隣りで静かに寝ている。

 この世界はやはり、弱肉強食ではないけれど、それに近いものがある。

 弱い者は搾取され続け、強い者が蔓延る嫌な世界。

 折角の異世界なのに。

 所詮は異世界なのか。

 なんか、思ってたのと違うと、クレームを言いたいところだが、私にはリフェルの姿になる目標がある。

 それまで、頑張ろう。

 ピコッタも居ることだし。

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